第16話 忍び寄る異変

「今の音は――—?」


「どうしたの、若葉ちゃん」


「え、ええっと―――」


私は木々が生い茂るジャングルの奥を見ていた。

目を凝らしてはみるけれど、何かが見えるわけでもない―――ひたすら瑞々しい木々だらけの、熱帯雨林。


でこぼこの獣道に、樹の幹。

大縄のような根が地面より上でうねっている。

動物も飛び出して出てきそうな、まごうことなき大自然。

おそらく知らない動物もいるんだろうなぁ、南国だと。


泉ちゃんが心配になったのか、私の背に声をかける。

銃声が聞こえたような気がしたのだ。

嘘だよね、銃声だなんて―――。



銃声、発砲音。

口に出したくもない。

そもそも、そう聞こえただけであって、私はそれほど武器に詳しくない。

そして泉ちゃんにそのことを伝えて、それでどうするのか。

怖がらせてそして、そしてどうするか。

今は言わなくていい。

私の勘違いかもしれないし


「ううん、何でもないの」


泉ちゃんに向き直る。

そうすると表情がこわばっていた彼女も安心したようだ。

でも気は抜けない。

ここは見知らぬ地も同然だし、魔怪人もいる―――いた。


待てよ、銃があり得ないなんていうことはない。

今までは、日本ではありえなかったけれど、ここは国外だ。

で、でもそこまで治安が悪いの?

全く聞いていないんだけれど、どうなんだろう。


「みんなのところに戻ろう」


元より、それだけのつもり、それだけの用事だったはずだ。

変身は何故かけないんだけれど。


「私も、なんでだろうね。この格好のままで戻れないの」


彼女も同じ症状。

症状と言っていいのかわからないけれど、そうらしかった。


「魔怪人は結局逃げただけだし、その所為かな」


「………」


「元の道を戻るけれど―――泉ちゃん、道に迷ってないよね?」


「それは大丈夫だよ、覚えてる。けれど、どうしよう、この格好のまま修学旅行に戻る?三泊四日の旅行中---!」


「あぁなんというか、レベルが高いわね、それ―――私の装衣ドレス、ここの観光名所より目立つわよ」


シュール過ぎる光景である。

日本から旅行しに来た集団がものすごい目立つ服装ばかりだったら……。

パレードかなんかかと、思うだろうか……現地の住民は。

もとよりこのジャングルに入ったのは、ちょっと着替えるため、普通の中学生に戻りたいがためだったのだけど、それができないとなると二人の足は重くなるというものである。

帰路が長い。


「こうなったらキラッキラな魔法装衣マジカルドレスであることを利用して、たくさん写真を撮って思い出を作るしかないわね」


「若葉ちゃん、発想が前向き過ぎるよ―――私は恥ずかしくてできない」


私はやけになりかけたが、泉ちゃんはいつもの恥ずかしがり屋さんだった。

今も、一歩身を引いて私についてくる。

並んで歩きたいんだけどなあー。


陽が落ちかけている。

予定では一日目、空港からバスに乗って町に移動するはずだったけれど―――。

このぶんではスケジュールも滅茶苦茶だ。

いや、飛行機の着陸時、全員が無事だった。

それだけで十分に思える―――それでいいという事にしておこう。

そうだ、今日は良いこともあったんだ。

仲間も増えた。

それは間違いないよね、びっくりしたけれど間違いない。


がさり、と草むらをかき分ける脚があった。

その音のした方へと向き直る。

濃いグリーンの衣服をまとった女子がいた。

魔法装衣マジカルドレスだ。


「茂ヶ崎さん」


出席番号二十六番、茂ヶ崎実里もがさきみのり

おっとりとした性格で大人しい子だけれど、修学旅行前のグループ活動のときも、みんなのまとめ役になっていた女の子。

責任感あるしっかりとした性格の子だ。


彼女であるとわかってはいるものの、例によって魔法装衣マジカルドレスを着ているので見違える。

可愛いけれど。

今日初めて着替えた、卸し立てじゃあないけれど、ドレスをその身に纏っている。



私は泉ちゃんと顔を見合わせる。

彼女も笑顔だ。

クラスメイトの女子と合流したとはいえ、この格好だと不思議な気持ちになる。

嬉しいような恥ずかしいような。

すごく新鮮だよ。


「あなたも、こっちに来たの?空港に、いや皆のいるところに戻ろうと思うんだけど、一緒にどう?」


「私は―――」


彼女は呟いた。

首肯したように見えた。

何を言ったか聞き取れない。

元々、大声を上げるような女子ではない。

彼女とは、離れていて―――会話する距離としては遠かった。

様子がおかしいことに気づくのにはすこし時間がかかった。。


目が。

彼女の目が、赤くどろどろと液体が入ってるかのように見える。

木の陰で薄暗い場所で、それだけが、両眼だけが光っている。。

目の錯覚だろうか。

それとも、そういうものなの?

彼女の魔法少女としてのチカラだとか、そういうものなのかな。

私はまだ、他のコのことを知らない―――。


「あのう、茂ヶ崎―――さん?」


私は彼女に近付く気が起きなかった。

何故だろう、初めて目にする、魔法少女であるその姿。

今では、可愛いと思えない―――。



――――




狙木豊大は、倒れた傭宇の身体に触れていた。

傭宇は完全に気を失っていて、身に纏っていた魔法装甲マジカルメイルがキラキラと舞う光を放射しつつ、蒸発していく。

学生服の白いシャツが現れる。

その左胸―――心臓の辺りに手を触れる。


音がする。

心臓は動いている。


「一応ちゃんと生きてるみたいだな―――まったく手こずらせやがって」


呼吸もせいじょうにできているようだった。

顔の上に手を近づければ、微かに熱を受けた。

だがひやりとしたぜ。

心はヒヤヒヤした。

俺が危なかったとはいえ、撃ちぬいたから。

しっかり胸を撃ち抜いたからなライフルで。

正当防衛ってことでいいよな。


勝つには勝った。

死人もでなかったから、いう事は無しだろう。

魔法少年と出会い、魔法少年と戦ったのは初めてだったから危なかったが。

余裕はなかった。

魔怪人を相手にするよりは厄介だろう。

そもそもなぜこんな戦いになったのかもわからないが。


気絶した奴から一度離れ、原因を考える。


赤い魔法陣があった、その開けた空間も見に行った。

近付いてみたが跡形もない。

傭宇に接触した陣は、その時消えたんだろう。

何も得られる情報がない。

納得がいかない………だが、解決したことだ。


操られ、疲弊していると思われるこの男子。

地面に寝かせるのは忍びない。


「―――よッこらせ!」


傭宇の腕を引っ張り、背中で担ぐ。

連れて帰ることは出来るはずだ。


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