第15話 狙木豊大と傭宇栄道 3
全力で振りぬかれた矛。
魔法の防具を身に着けた腕で受けてしまえば衝撃がかなり軽減される。
使用者である俺に痛みはない。
衝撃がそよ風のように感じられるあたり、流石
科学とは異質なる存在、科学を超越した存在である。
これが
そう思わせるに足る刺突。
俺は槍を避け続ける。
度重なる斬撃に、徐々に
だがなんとか避けてばかりいられるのは、戦う場所の影響もある。
傭宇も、ただ考えなしに振り回したら不利なのだろう。
自然豊かな島の木々に槍が突き刺さり、抜けなくなるからだ。
だが数が違う。
武器の数が違う。
この銀の魔法少年の生み出した武器は十を超える、正確な数はわからない。
武器が尽きない、それは攻撃が止まないという事でもある。
それらすべてが、出席番号十四番、
銃をリロードするくらいの感覚で次の槍を取り出した。
これでは本当にマジシャンのようだ。
トランプをめくるほどの力加減で槍や鎖鎌を出されていては、たまったものではない。
どこに隠し持っていたのかも、まるでわからない。
何もないところから取り出した、というにしか見えなかった。
俺は槍を再び、紙一重で避ける。
見惚れそうになっている場合じゃあない。
だがこういう芸当をできるあたりが、魔法少年だ。
槍を何度か躱しつつ、交渉の余地を探る。
「どうだ、どうした―――助けでも呼ぶかい?」
「誰が―――」
強がりかけたが、苛立ちを押さえる。
その提案は、一理あった。
操られて狂っているこいつを皆で取り押さえる、倒しはしない、傷つけずに抑える。
何にも悪いことはない。
「傭宇―――空港があるの、どっちだったっけ」
「さあ―――ねッ!」
髪にかすった。
走り回ったので場所も、もうわからなくなった。
知らないジャングルの中だ。
大問題だが、落ち着け。
奴は余裕があるのか、武器をいくつも取り出し、誇示している。
また異空間だと思われる場所から刃が大きな棒状のものを取り出す。
刃先が
俺が名称を知らないそれを、少しの間眺めた後、脇に置いた。
置いた―――当然、棚などありはしない。
空中に、背中側に、邪魔にならないように置いた。
幾つかの刀剣類がいつでも使える状態で浮かんでいる。
背中が物騒な荷物でごちゃごちゃとしてきた。
奴が走れば、武器もすべてついてくる。
こんな動物いただろうかと考え、
背中の武器が、すべて尖っている。
今は手に持っている槍でいいと判断したらしい。
魔法を使う奴ではあるが、それでも腕が二本であるのは俺と変わりがないらしい。
背中にいくつも並び―――コレクターか何かになったつもりなのかもしれない。
俺にはピンとこない考えだったが―――そうだな、銃は欲しいが。
もっと強い銃があればお前の動きを止めてゆっくり話を聞くことは、できるだろうか。
「喋れるんだな」
「うん?何がだい?」
「お前が操られているのはわかる―――が、お前は、まだ喋れる、俺と話す気があるんだな」
「………」
「俺を突然攻撃する気になったのはどういうことだよ」
「わかっていないのはお互いサマだろ、お前だって、狙木」
「わかっていない………?」
イマイチ話が通じない。
それは、もういい―――操られているのなら仕方がない。
重要なのは魔法陣に触れてから奴が俺を攻撃し始めて、魔法陣は消えていたという事だ。
傭宇、また俺にケンカを売ろうっていうのか。
奴の息が荒い。
そこまで戦いに執着するような性格なのか。
苛ついているのはわかるが、どういう感情だ?
別にこいつから恨みを買う何かをやった覚えはないんだがなあ。
だが気をつけよう、他人から恨まれると槍で刺される場合もあるとわかった。
そういや
交友関係を見直し、途端に生き方を改善したくなってきた俺であったが―――。
傭宇はぽつりと言った。
「ここじゃあ無理なんだよ」
その発言の意味は―――ジャングルでは良くない、場所が悪いみたいな意味なのか、わからないが。
まだよくわからないことを言っている。
さすが、魔法陣に操られている男だぜ。
そう思った。
思いたい―――操られている。
操られているのか―――?
本当にすべて、気が狂ってほざいているだけの意味不明な言動なのか?
頭がおかしくなりそうだ。
とにかく、攻撃の意志が奴から消えない―――再び槍を構える。
じっくり考える暇は無さそうだ。
持ち手を振りかぶり、後ろに下げる。
突くか―――いや、投げるつもりか?
奴の使うのは、両手に槍だ。
それらで俺を貫くつもりらしい。
俺は思い切って前に踏み出す。
槍の先についている刃、これさえ避けて内側に入ってしまえば---!
傭宇は俺を見て、やや硬直していた。
驚いているのだろう。
迫られることで緊張しているのだろうが、困惑もあるだろう。
何故近づく、と。
槍などの長物を多用、好んで使う傾向にあったこの男子。
確かに刃先さえ当たらないように密着する気持ちで戦えば、ただの棒のようなものだ。
いま、肩や腕に擦っても痛手にはならない。
だがここまで近づいて、俺はどうする。
そうだ―――遠距離を狙うライフル型の武器を使っておきながら、ここまで相手に近付こうとした経験はない。
―――ライフル型の武器を使うなら、な。
「
やや小ぶりな光の奔流がライフルを包み、形状が戻っていく―――俺の手には、棒状の魔法戦杖が握られている。
見た目は、ただ装飾に手の込んでいるステッキだ。
先端のふくらみに、黄緑色の宝石が埋め込まれている。
傭宇は
肩と上腕で、目くらましを防ごうと身をよじる。
その
下から、かち上げるように。
「うぐッ!」
傭宇を宙に打ち上げた。
サイズこそ野球のバットと大差ないが、大違いだ。
魔法少年による、
魔力による打撃強化、木の上まで飛んでけ。
「ちぃい―――ッ!こんな、これぐらいのことで---!」
がさり、と樹が揺れるのは上昇した奴が突っ込んだからだ。
奴は大したダメージはないと言いたいらしく、反撃に移ろうとした。
だが両手の槍が、木の枝にかかっていた。
降りようとしても背中の武器たちが木々に編み込まれているようになり、降りられないことに気付き、戸惑う。
奴が周囲をきょろきょろしている間に、俺はステッキを掲げる。
ここからは近接武器では無理だ。
だから―――、
「
光の奔流が発生し、俺の手元にマジカル突撃銃が出現した。
その引き金を引き、発射されるのは7.62㎜魔導弾。
傭宇に向かって連射し、弾丸はびす、びすと音を立てて、うち一発が胸に命中した。
「がッ………あ………!?」
傭宇は両手から槍を手放し、がさがさと何枚かの木の葉とともに、地面に落下した。
音を立てて枯れ葉の重なりに突っ込み、紙吹雪のように葉が舞い上がる。
突っ込んだあの男子生徒は、動きが止まっている。
「どうだ―――マジカルだろう?」
言いながらふらつく俺。
息が荒いが、膝に力が入らない―――装甲の魔力が削られたのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます