第14話 狙木豊大と傭宇栄道 2


今でこそリゾート地、観光スポットとして認識されているサイパンではあるが、青く美しい海に囲まれた南国の島であって、それ以外の歴史がないと言うわけではない。

別の一面もある。

かつての大戦中、激しい戦闘が行われた地でもある。

平地においての戦車同士の戦い、砲の撃ち合い―――確かにあったが、多くは人対人で行われた。

ジャングルで隠れ潜んで戦車いらず、入れずのゲリラ戦、長期戦である。



そのジャングルに剣撃によって生まれた音が響く。

今、剣が激しく敵の武器に衝突する。

敵の銃に。

純粋な武器同士、魔法戦杖マジカルステッキの接触音、そして互いの魔力がれる音が、混じる。

液体同士の衝突音に似ている。

波音、波紋。

衝撃が草花を揺らす。



戦いに優劣が生まれてきた。

有利不利が、如実に現われてきた。

勝負の行方はいずれ決まる、平行線ではなかった。

もともと不意打ちみたいなものだ、拮抗する勝負ではないことは、明白だ。

不意打ちに慣れたところで、俺は反撃をすぐにできない。

相手が魔法少年だから。



煌めく刃物が空を切り、それを何度も避けて、避け続けて。

そして逃げる余裕を失った俺は銃の側面で槍を受ける。



このマジカルライフルの銃身はただの金属じゃあない。

ヤワではないが、これがライフルとしての本来の使い方でないことは、いつも使っている俺自身が一番わかっていた。

こういう使用法は想定されていない。

ギクールの奴がいたら、怒るだろうな―――戦い方が滅茶苦茶だと。


絶え間ない剣戟を受けながら考える。

どうして攻撃されているのかわからない。。

意味がわからない。

傭宇、何が嫌だってんだ。

俺の何が気に喰わない?


「傭宇!なにやっているんだよ、新しい冗談か!?」


ライフルを鉄棒みたいにもって、槍を受け止め、押し返そうとする。

力を込めるのに必死な傭宇の目は赤くなっていて、感情が読み取れない。

元々感情を読むのが得意かと問われれば、微妙なところだが―――。

今、この男から何か意識が欠けている。


「なにが嫌なのかも、わからない、ってか………?」


攻撃衝動か、もっと言えば殺意か。

目だけでなく、心もそれに染まっている。

俺も歯を食いしばって、槍の刃が自分に触れるのを避ける。

手いっぱいだ、声を出すのにも苦労が生まれる。


「お前、そんなので俺の槍が防げるかよ」


傭宇が、ふんばりすぎて体勢に無理が出始めた俺に尋ねてくる。

対する傭宇は、冗談ではないと声色が言っている。

俺はつらい。

体勢がつらい―――ストレッチ染みたひねった体勢になってしまう。


「俺を槍で―――倒せるとでも?」


と、他に言うべきこともあるだろうが頭に血が上り始めた俺。

槍で俺に勝てるかよ。

そう言った俺に、奴はさらに高圧的に迫ってくる。


「槍で倒せるさ。今まで―――魔怪人を倒してきた、ぜッ―――!」


こいつも力を入れることに必死になっているようだった。

たがいに武器を持ってはいるが、距離が近い―――やっていることは原始的な力比べでしかなかった。

相撲か、取っ組み合いか。


「………意外と、癇癪持ちだったんだな知らなかったぜ」


クラスメイトの意外な一面を見ることが出来て、嬉しいよ。


槍を振り切って、弾かれる。

俺は後方に転がるが、このまま離れようとする。

離れて―――撃つ。

離れて銃を構えることが俺の取るべき策だ。

だが、ジャングルの中だ、足場が斜面だった。

姿勢を整える俺に、槍がぐんと伸びてくる。

胸元に近付く前にそれを躱す。

と、背中がなにかにどんとぶつかる。


木だ。

ジャングルだから当たり前だ。

木に背を向けた状態で、奴と対峙するこの状態で息を整える。


「はあ―――、やッ、べッ」


「逃げ場、無いだろ」


ゆっくりと歩いて、槍を揺らし、俺に向かって狙いを定める傭宇。

銃口を向けている俺。


「本当なんだな―――?」


本当なんだな、本当にやるんだな。

そういう意思でもって傭宇を睨み―――俺は引き金を引いた。

銃口から発射された魔導弾は、奴の左腕に命中した。

狙い通りだった。

急所は狙わない、外すしかない―――。

同時に、俺が首をひねると、さっきまで俺の頭があった位置に槍が通り、魔法装甲マジカルメイルの一部に刺さる。

左肩だ。


「ちぃ!」


痛みはあるが、魔法装甲で守られている。

どうする―――相手は相手で、銃弾一発を受けて、腕がしびれているようだった。

致命傷ではない。

まだやれる、とばかりに撃った。

魔導弾を連射すると、奴の槍が宙を舞った。

右腕を押さえている―――持っていた手に当たったらしいとわかった。


「落ち着けよお前は、まず―――拾うな。拾うなよ槍を」


すばやく言ったが、緊張感が鎮まっていく。

これであとは、ライフルは向けるだけ、それだけで済むといい。

撃たない戦いになる。

話し合いにシフトしていけるかどうかだ、問題は。


「操られてるだろ、お前―――さっきの魔法陣だな」


操られている人間を見たことは、初めてではない。

機内でのキャビンアテンダントの女性もそうだ。

魔怪人はたびたび、一般人を戦いに巻き込む。

その有害性から人々を守るために俺は魔法少年にされた―――もとい、なった。



ギクールに命じられて。

傭宇、お前もそうじゃあなかったのか―――?

それともなにか?

俺に撃たれるために魔法少年やってたのかよ。

と、目で訴えるが俺はこの男子と毎日話してたような仲ではないのがつらい。



傭宇は答えないで立ち尽くしている。

お前なのか本当に?

自分の意志で今、こんなことをやらかしているのか?

嘘だな、それは

そうは思えない、早く治れ。

話し合いをしたいがそれがどの程度できるのかわからない。

彼は治る様子がない―――病気でもあるまいし、治るものなのかどうかが、そもそもわからない。



俺は魔法陣について多くは知らない。

だがあれが原因で、あれを切ってからこうなっているのは間違いないだろう。

そういえば機内では女の人が操られていたな。

だが魔法装甲マジカルメイルを着こんだ魔法少年がやられるなんてな―――、まるで想定していなかった。

流石に知ってそうな奴にきいてみるしかないか。


「ギクール―――見ているなら出て来いっ」


相棒を呼んだ。

呼んでも風でさざめく葉音しか、聞こえない。

あのマジカルマスコットはどうしているんだ。

どうして出てこない、流石におかしいぞ、魔法少年同士の戦闘だ。

これをどうでもいいとるに足らない問題だとでも思っているのだろうか?

奴さえ出てこれば、ひょっとすれば魔法陣から傭宇を解き放つところまでやってくれる可能性はあった。

まだ魔法少年になって一年も経ていない俺は、術式の解除などやったことはない。

だがあの小動物は、ペットとして鳥かごの中にいそうな見た目をしておきながら、魔法のエキスパートなのだ。





「そう、か―――出てこないか」


傭宇はぐっぐっぐ、と妙な笑い方をした。

堪えるような、押し殺すような笑い。

こういう男子だったか。

よく知る仲ではないものの、それでもちぐはぐさを感じる。

仕草が不安定だ―――教室での様子とは似ても似つかないだろう。



そう感じさせる笑いで、視線は地面に落ち、肩を上下させていた。

マジカルマスコットに見捨てられた、と言う。

その笑い方に感情が逆撫でされたような気が起こった。。


「見捨てられたんだな―――」


「………なあ、両手をしっかり上に上げろ、お前はもう戦えないぞ」


俺は。

言いながら、油断はしていないつもりだった。

左右や、背後も一度振り返った。

ギクール、いやそれ以外でもいい、何かこの状況を抜ける方法は?

攻撃する、奴を倒せば或いは洗脳だけ解けて、奴は無事とかそう言うことに、なって箔ttれないだろうか。


傭宇は頭よりも上に手をゆっくり上げていく。

そして、頭上から何かを引っ張り出した。

空間から現れたそれは、長い束を持つ、武器だった。

俺は一発撃つのがやっとで、そのまま振り下ろされたほこの直撃を受けた。


「なん―――ッ!?」


何があった?

見れば奴は矛を構えている―――槍ではないと感じたのは、さっきとは刃の形が明らかに違うためだ。

違う武器が、別の武器が、出てきた。

突然出てきたという表現が正しいが、自分で見たものを、映像を信じられない。


『兵戈槍攘』アナザーアームズ………!」


奴がその名をまた言う。

赤い目を見開いて、息を荒げている。

傭宇栄道の魔法戦杖マジカルステッキ―――、ステッキ?

じゃあさっきのはなんだったんだ。

さっきのも、魔法戦杖マジカルステッキ



「どれがいいかなァ」


右手を左腰のあたりに動かす。

五本の指で何かを掴むと、剣を引っ張り出した。

両刃の、槍よりは短い―――しかし刃が存在感を放っている剣。

放り投げるとヤツの間合いに固定された。

そして日本刀が、妖刀が、曲剣が、放蕩が、槍が、矛が、戦斧せんぷが、大鉈おおなたが、ククリが、鎌も、あらわれた。

その他にも不思議な形状の得物が数多く出現したが俺は専門家ではないのですべては知らない。

銃以外の武器なら何でもあるように見えた。

すべて傭宇栄道の左右の手が届く範囲内に浮かんで、固定された。

何時いつでも、使えるように。


「槍がいいか?矛がいいか?剣が無難なところかな、フルーレがあるけどややマイナーかな―――知ってるか?フェンシングに使われる種類のひとつでな」


「………い、色々、あるんだな」


そんな言葉しか出ない。

自分の目で見たものに、映像に、頭が追いついていない。

連想したものでは、マジシャンが奇術を披露する様子に近い。

このクラスメイト、魔法少年ではなくマジシャンだったのか。


「そう、そういうステッキだ」


それは色々と卑怯じゃあないか―――?

と一瞬思った。

魔法の武器なので何でもありなのか?

俺は銃だけなんだが。

傭宇は結局、剣を握り、言った。


「不思議だろう?あとは、そう―――マジカルだろう?」


傭宇は言いながら武器を手に取り、踏み出す。

俺に向かって。

右手に剣、左手に矛を握り飛びかかってきた。

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