第13話 狙木豊大と傭宇栄道 1
魔法陣。
魔法少年として活動している今、知識として頭にあった。
魔力の源であるそれを知らないわけではない。
変身して
らしいというのは俺のマネージャー(のような者)の、ギクールの談であり、変身の光の奔流に包まれている俺の眼には、ほとんど見えないのだが。
魔力が大掛かりな起動をするときには、よく関わるという話だ。
陣の色は赤黒く、どことなく不気味。
月が空で光っているように、無音でその場にたたずんでいる。
魔法陣は、木々がない、やや開けた場所に、浮かぶように存在している。
浮かんではいるが魔力がみなぎって描かれた文字なだけあり、艶めいている。
宙に浮く五芒星と、描かれている魔法文字。
大気に描かれた標識。
揺れる液体のように独特の光を放っていた。
その魔法陣が島の中にあるという事は、逃したあの鳥型魔怪人も近いという事だ。
そう俺は判断する。
魔怪人もその攻撃は多種多様あれど、魔法の力を使う。
だから奴らには奴らの魔法陣がある。
まさか関係があるのか。
魔怪人が置いた、設置をした可能性はあるし、逆に俺たち側の、味方の可能性もある。
見る限りは、魔法少年側か、あるいは魔怪人の差し金というか所有物かはわからなかった。
これはどういう意味で―――?
「おい」
と、俺を呼ぶ短い声。
後ろから声をかけられて振り向く。
「いきなり逃げることは無いんじゃあないか、狙木くん。みんなまだ空港にいたぜ?」
「ーーー
出席番号十四番、
―――南郷たちと一緒にいることや話している様子を遠目に見ていることが多かったが、俺と話したことは何回あっただろう。
手先が器用らしいという噂をしていたのは誰だっただろうか。
クラスにいるときの個性というか、特徴もあったような気がする―――が、今ではどうでもいい。
シルバーがかった色合いの
魔法少年でした。
クラスでどんな存在だったか、何が好きか、どの教科が得意だったかとか、部活はどこだとか、すべて霞んでしまってどうでもいいモノにすら、思えるーーー本当に。
ちなみに俺は今日という日まで、自分以外の色の魔法少年を見たことがない。
自分以外の魔法少年と、初めてであった。
ていうかいたのかよ。
そもそも今日初めて知ったからな。
というかこの男子に対して、一瞬身構えてしまったのは内密である。
俺は魔法少年だから、魔法少年の戦闘力というものを知っている。
体感もしている。
だから木の陰から奴が現れた時、見慣れない服装、いや装甲の相手なら心が硬直する。
魔力による防御なので硬度と関係していない。
だが、戦闘のための装備であることは、間違いない。
「いきなり逃げた、と言われてもな、俺は魔怪人を追いかけたつもりなんだが」
「まさか、見つけたのか?」
まだだ、と俺は返事し、魔法陣に目を移す、視線を送る。
そうすると傭宇の方も興味を持ったらしい。
その目つきから読み取れるあれこれ、情報は少ない。
奴は知っているだろうかこれを。
魔法陣を知っているのだろうか、同じ魔法少年なら。
あり得なくはない。
ギクール―――マジカルマスコットから何か聞いているのか。
「ところで。 なんだこれは?」
「探したら、代わりにこれがあった。敵の代わりによ」
「あったって―――魔法陣があるか。それだけに見えるな。もう危険はないんじゃあないか?」
確かに攻撃してくる敵はいなくなった。
それもそうだ、俺はちらり、と自分のライフルを見る。
解除してしまうか?
道路標識のようにたたずむ、無反応な魔法陣を前に、やや緩い会話を交わしてしまう。
「あ、ところで狙木くん。 ケガ人、マジでいないらしいよ……」
「ああそうか―――俺も持ち上げてたけどな、崖枝のやつも飛行機持ち上げてたな、思ったより真面目に」
「そう、そう―――、あれ、あいつだっけ。機内で下痢だとか言ってたの」
「そうだよ―――何やってんだよジャンボジェット持ち上げてるじゃあねーか。持ち上げれるじゃねーか嘘つきが」
「全部嘘、全員嘘だよ。なんかもうみんなグルというか、一体どういうことだよ」
「なー?」
「え、ずっと?ずっと戦ったことあるのか」
「ずっとというか、春から。今年の春に、日本の平和を守るって」
「ああ………俺もそれぐらいから」
初めて会った、同志という事なのだろうか。
お互いどういう心境とテンションでこの会議を行えばいいのかわからない。
見当がつかないし前例がないんじゃあないか、こんなことは。
結局、紆余曲折と言うかくだらない雑談を経て、この魔法陣をどうするかという話になった。
マジカルマスコットに聞くという発想はなかった。
赤い五芒星は、脈打っているようにも見える。
敵の物ならば消した方がいいという気がした。
直感は、あった。
そして魔怪人をどうにかする。
「なにするつもりだい」
「どうにかする―――魔怪人の仕業だとしたら、何とかしなくちゃあな、ギクール」
とはいうものの、確信が持てずに観察。
近付きつつ、そういえばギクールから返事がないなと思った。
辺りを見回す。
踏ん切りがつかない俺の前に、傭宇が進み出ていた。
魔法陣の前に、ステッキをかざす。
奴が言う。
「
ステッキから強烈な光の奔流が発生し、おもわず俺は腕を顔前にかざす。
光が晴れた頃には、奴の手に一本の武器が握られていた。
武器、長いその柄の先に刃がついている形状の、これは―――槍だ。
「槍」
やり。
俺が呟く―――すると奴はほんの少し笑ったように見えたが、魔法陣の方を向いた。
槍を構えている。
まさかそのままやる気か、と予想する。
「これでッ!」
傭宇の槍がしなり、残像を空に描きつつ魔法陣を切った。
魔法陣に傷跡が、ひびが入る。
「おぉ………」
俺は黙ってそれを見ていた。
見ていることしかできなかったともいえるが―――見惚れた。
自分以外の魔法少年の戦闘に―――戦いの空気につい、魅入った。
この魔法少年、槍を使う。
俺は使えない―――使ったことがない。
一人ひとり戦い方が違うということだろうか?
だろうな。
実際に見るまでは信じがたい気持ちだった。
それはわかった。
そして、その先もあるのだろうか。
先か、次か。
魔法陣が蒸発するように消えた。
振り返らない傭宇。
奴はジャングル内に視線を向けている。
いや―――魔法陣があった方を向いている、
睨んだまま動かない傭宇に、何かを話しかけたほうがいいのだろうか。
じっと睨んで、黙ったままだ。
動かない。
遠くから鳥の鳴く声がする。
見えないが、知らない鳥だ。
木々のざわめき、自然の音が深い。
いつも過ごしている間藤中学校とはまるで違う風景。
「おい、あのさ」
「ねえ、その銃は、それで戦うっていう事なのかな、狙木くん」
「ん?」
自分の方に、今ひっかけているそれを言われたのだと気づいた。
確かにそうだ、傭宇の言うとおり、このライフルで魔怪人と戦ってきた。
戦闘態勢になると、より戦いやすい形状に変化する。
「ああ、そうだよ。俺はずっとこれをステッキだと思ってきたんだけど―――こういう変形をするものだと思ってたんだがなあ―――」
違うバージョンもあるんだな。
そんなことを言いそうになるが、思いとどまる。
言うのは恥だ。
自分以外を全く知らないのはつらいな。
それもこれもあの意地悪いマネージャーの所為だ、教えてくれてもよかったんじゃあないか。
俺はてっきり、魔法少年なんてクラスに一人いればいい方なのではないかと。
思っていた。
一人いても十分に奇跡なんだがな。
無知が急に恥ずかしくなって、黙ってしまう。
ひょっとすると傭宇は違うのだろうか。
魔怪人を見つけられなかった俺に比べて、色んな知識があるのか?
他人を、いや他魔法少年を知っているのだろうか。
俺の疑問をよそに、奴は喋る。
気のせいか、間延びしたようなやる気のない声だった。
「狙木くんは遠くを狙えるんだな」
「そりゃあ―――銃だからな、だって銃だからな」
「だけど、ここまで近づいてしまったら―――もう、俺の方が有利っていうことになるんだ」
「―――うん?」
なんだって?
不意に聞き返したくなって、奴の方を向いた。
銀色の残像が風切り音をひゅるりと鳴らして大きくなる。
槍の刃が迫って来たので間一髪で首をひねった。
体勢が不安定なままに、奴から距離を置く。
ほとんど地面を転がるような回避をした俺。
奴が俺に向かって槍を構える。
目の中が紅い沼のようにどろどろと濁っている。
俺を向いてる。
俺の方を向いているんだろうけれど―――見えているのかは定かでない。
なにせ、その瞳が見えない。
赤い眼球はどろどろと、液体のように独特の光を放っていた。
「なッ………に、い!?」
混乱する俺に、奴はその刃を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます