第9話 戦え魔法少女! 春風若葉



「悪の魔怪人!今日という今日は、ただじゃあ置かないわよ!」


魔法少女の姿になった春風若葉は、ステッキを敵に向け言う、言い放つ。

装飾が施された可愛らしい靴を飛行機の主翼の上で、一歩踏み出す。

高空を飛行中の飛行機に、通常の姿勢で立っている。


「修学旅行に向かう生徒たちを狙うなんて、許さないわ!」


これまで日常的にそうであったように魔法少女は悪を指差し、宣言する。

春の芽吹きを思わせる淡い緑と、穏やかな日差しのような白。

それらを基調とした魔法装衣マジカルドレス


心は徐々に闘争の準備、心構えを決めていた。

正義のためだ。

そんな彼女だが後ろの物音に気付く。

自分の背に並ぶ―――魔法少女、魔法少年の数に。


「う、うわあ!え、何で魔法少女、え、こんなに―――だッ、誰!?」




―――




「ぐ―――う、よ、よく出て―――来たな!魔法少女よ」


対するバルルーンの胸中は複雑であった。

冷や汗をかいた。


おいおい………なんだぁこの数。

聞いてねえ、聞いてねえぞ―――なんかの間違いじゃあねーのか?

供給過多にもほどがあるだろ。

二十人はいる―――集団、魔法集団じゃあないか。

実は一番前の魔法少女以外は、なんかのギャラリーとか、観客とか―――そういう事では、無いのか?

というか俺は『魔法少女』に出て来いって言ったんだが、男もいる、普通にいる。

どういうことだよ。

本当にどういうことだよ、要望に答えろよ。



バルルーンが狼狽えているその時。

困惑しているのは、バルルーンだけではないようだった―――。


「私だよ私!」

「制服じゃないからわかんなかったー!」

「えっ、えっみんな何でいるの?」

「狭い、ちょっと狭いから詰めろ」

「そっち詰めて」

「やめろ、落ちる!」

雲雀ひばり、アンタその恰好なによ」

「あんたに言われたくないわ」

「聞いてないんだが」

「この格好で会ったことないよな、つづみ

「やめろ、今名前で呼ぶなよ、魔法少年なんだから俺」


言っては何だが、この集団、チームワークがあるようにはとても見えない。

あと、謎の困惑が彼ら彼女らを支配している。

状況が全然わかっていないようだ。


戦力としては多すぎるようだが、彼らは一体---?


「待って皆、私が―――やる。戦う。」


最初に出てきた若葉色の魔法少女が、進み出ている。


魔法戦杖マジカルステッキ―――『挙止進退』シャイニンググローブ!」


彼女の持つステッキがひときわ大きく輝き、光の奔流を辺り一帯に生み出す。

ステッキが消失。

彼女の両腕を包む魔法の光と化し―――輝くグローブとなった。

ただのグローブではない、魔法の力をたたえた、魔怪人に対する攻撃兵器!


それを構えたという事は戦闘態勢。

魔法戦杖マジカルステッキの名を呼び、開放して使う事。

それはすなわち武士が刀を鞘から抜いた状態と考えてよい。


「ステッキの武装化………!」


「さあ、どこからでもかかってきなさい!」


ステッキの力を開放した魔法少女が、戦闘開始を宣言する。

バルルーンは明確な答えが出ないままに、手のひらにエネルギー弾を生み出した。

逃走も考えたのだが、今、一人の魔法少女が進み出ている。

そして、その後ろに立つ二十からなる魔法少女少年が、顔を見合わせ、まだ何事かを言い争っている。

どうやら全員が状況に困惑しているらしい。

烏合うごうの衆だな。


今なら一対一の形にもつれ込むことは出来るか―――!?

バルルーンはばさり、と翼を広げた。


「勇ましいことだなァ魔法少女よ!だが、飛行機を守りながら戦えるかなァ!」


口からは出まかせというか、攻撃的な言動がでた。

魔怪人としての性質でもある。

バルルーンはもはや自分の手に負えない状況であると知りながらも突っ込むしかなかった。

舞台が空の上であること、それは多少の有利な点だと考えていたが、これでは。

正確には数えていないが、二十対一ほどの戦力差では話にならない。

死ぬか、ここで散るか―――!





だがその時、誰もが予想しない事態が起きた。


バルルーンの目に、不思議な光景が移った。

皆が魔怪人である自分を注視する中、飛行機が魔力の塊に、向かっていく。

巨大な、魔力の塊に飛行機が飛び込んだ。


全員が、その素肌に知らない魔力の感触を受け取った。


「なんだっ!?」


「えッ―――?」


敵味方、顔を見合わせる。

両方が、両陣営が思った―――何か攻撃をしたのだろうか、と。

だが魔法少女少年も、困惑の表情で顔を見合わせるのみだった。

魔怪人も知らない魔力に包まれた。

陸から水に飛び込むように、魔力の密度差を感じた―――。



「おい見ろ!飛行機のエンジンが!」


主翼の裏についているいる、円柱形のエンジン。

本来高速で回転して動力を生み出しているはずの回転する翼。

肉眼で動きを捉えられるはずもない。

それが今まさに速力を失い、停止しようとしていた。

のろのろと、勢いが死んでいく。

これが停止するという事は―――この飛行機はこの先―――!


「魔怪人バルルーン!何をっ!何をしたの!」


若葉が向き直り、問い詰める。

だが悪の魔怪人の姿は、既になかった。

飛行機周辺を見回しても、いない―――。





――――――




飛行機の操縦席内は、機長と副機長の二人が座っている。

経験が豊富な彼らではあるが、今日という日は、今迄にあったどんな非常時よりも追い詰められていた。

まごうことなき緊急事態である。


「右翼側のエンジンも停止しています!機長!」


「こんな馬鹿な話があるか!さっきの衝撃といい―――なんなんだ、これは!!」


計器類から光が消えていく。

この機の操縦システムがダウンした。

一部機能の不調などは経験上、何度かあった。

だがこれは、まるで飛行機の回路すべてを切断されたかのような手も足も出ない状況だった。

操縦などできるはずもない。


「連絡も付きません―――これでは不時着をするしか!」


「………」


安全なフライトが不可能になった今、二人には苦渋の表情のみが残る、浮かぶ。

沈黙する計器類ではあるが、目的地は近い、目と鼻の先だ。

まだできることがある、と考え続けている最中だった。

ガチャリ、とドアが開いた。

コックピット部分へのドアには鍵がかかっていたはずだが、一瞬にして破壊された。


「こんにちはァーッス!コックピットってここであってるスか?」


二人の背に大きな声で語りかけたのは、

妙に蛍光色なオレンジの色の服を着た少年だった。

中学生くらいに見える。

こんな非常時によくわからない存在が飛び込んできた。


「なんだねキミは!ここは立ち入り禁止だぞ!」


「どうやって入った!?」


「わ、スゲー!スイッチがいっぱいあるゥ!スイッチが多い!これがコックピットだな」


「はやく出なさい!」


「おじさんたち!飛行機動かすから任せてくれ」


「?……なっ馬鹿なことを!いいから出なさいここから!私たちにまかせなさい!」


「そうはいかねえ。飛行機が今、落ち始めてる!俺らが手伝うから協力してくれ!」


「………協力だってえ?」


この部外者の未成年は何をするつもりだ、肝心の飛行機が落ち始めている。

どういう訳か、すべての機能がストップしたのだ。

操作を機体が無視する。

これでは泥船も同然だ。

この状況で手伝う、協力と言われても何も手がない。

素人に何がわかる、と副機長が嫌悪する中、機長は言った。


「キミは、普通の子供とは違うようだね―――、だが何とかできるのかね…?この危機的状況を打開する、策があると?」


この仕事に長年携わり、トラブルにも直面、対処してきた機長ではあるが、状況に光明を感じていた。

不思議と不安にならない。

煌びやかな装飾が施された、彼の姿に何かを感じ取っていた。

魔法が関わったこの事件に対しては、なすすべがない。

無いはずだが、この少年ならばできる。

理由はわからないがこの少年の瞳に、迷いはない。

急いでいて焦っている感情はあるかもしれないが。



さく?作戦は―――今考えている」


中学生が堂々と言う。

機長と副機長の表情には不安しか浮かばない。

そうだ、やっぱり不安だ、希望を持ちかけたのが勘違いだったのだ。


「でもなんとでもなる。俺にしか―――いや、俺たちにしかできない」


魔法少年と魔法少女。

空でも行動が可能な人手がある。

それも一人や二人ではない。


「魔法を使うんでスよ。マジカルパワーで、飛行機を不時着させる」

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