第6話 男子がしっかりしなければ
二年二組の女子生徒がそれぞれの想いや使命を胸に秘めて言い争っている。
その様子を見て、一方の男子は浮足立っていた。
男子もまた、浮足立っていた。
狼狽えて混乱をしていた。
何が起こっているのかよくわからない上に、声をかけるにもかけられない。
おいおい、どうしたっていうんだ、こいつらは。
同じクラスの女子たちは。
悪者の襲撃をうけて、女子全員頭がおかしくなっちまったのか?落ち着こうぜ。こういう時はちゃんと備えて不時着の体勢をととのえるべきなんじゃあないのか―――と。
多くの男子が、状況に混乱しつつもそんな考えをめぐらせていた。
これは男子の方が知的だ冷静な思考を持つのだ、いうことではない―――目の前の奇妙な言い争いを見ることで、逆に落ち着いてしまったという。
そんな心理だ。
面食らいはしたが、自分たちがしっかりしなければ、と思ってしまった次第―――というのが近いだろうか。
自分たちにも、この感情を上手く言い表せない。
人の振り見て我が振り直せではないが、周りを見て何かを感じることはある。
ただ、意見があったとしても、周りがうるさくて言えるタイミングでもなかったが。
「いやあ、このままだとどうしようもないだろう。乗務員の人もあの調子だしさ………」
と、男子のひとり、常に表情が涼し気な
その女性は夢うつつ、と言った様相でふらふらと歩いて離れていく。
異様に暗い雰囲気を纏っている。
状況が普通でないことは男子も皆、このころには認めていた。
と、そこで悪の組織に操られている彼女が、通路の自動ドアに近付き、開けた。
そのまま、隣の部屋か通路かに、消えていく。
がたり、と席から立ち上がったのは、男子の
「え?」
「オイ野薊………?」
「向こうに行く」
野薊のその言葉に、数人が固まる。
この男も協調性に欠けるタイプか、と思った。
実際、あくまで男子中学生という存在なので身体を動かさずにはいられない性質の者も多い。
頼むから機内で走り回るようなことをしないでくれよ―――と視線をやる。
その程度のことは、考えたけれど、野薊の意見はこうだった。
「一組の奴ら―――隣の部屋にいる一組の奴らいるだろう?、ドアの向こうに―――ちょっと様子見てくる」
友達がいる、ということだった。
心配だと。
「………そ、それだったら俺も」
「オイ!ズルいだろそれ!」
と、男子数人が騒ぎ出す。
これでは二年二組男子もパニックだ。
いや友達想いですよアピールであり、けれどやっぱり友達が近くにいないと落ち着かないという、つまり本音であるパターンが混じっているのだけれど、どちらにしろ騒ぎはマズい。
飛行機の中も外もうるさかったら、落ち着くはずの事態も落ち着かない。
皆、それぞれ精いっぱい声を張り、自分が隣の部屋に向かわなければならない状態であることを示す。
説明する。
女子の争いも収まっていないうちにこんなことになってしまったクラスの担任は、途方に暮れていた。
担任は一般的な男性中年教師であり、経験が足りないわけではない。
しかしそんな彼でもやや異様なこの状況に困惑する。
哀れな担任の心労などつゆ知らず、意に介さず、男子たちは使命感に燃えていた。
男子たちの、考え。
(どういうことだよまったく―――このままじゃ変身するときに見られて恥ずかしいだろ)
そう思案したのは、出席番号一番―――
魔怪人討伐数は76。
(今のところ呼ばれたのは魔法少女だ―――なら俺は、違うってことなのか?)
そう思案したのは出席番号二番、
魔怪人討伐数95。
(とはいえ、ボクなら解決できる―――ボクという『魔法少年』ならね………!)
出席番号三番、
魔怪人討伐数102。
(こういう時は男子がしっかりしないといけないんだよ、そうだろう?だからまず変身させてくれ)
出席番号四番、
魔怪人討伐数87。
(しかし魔法少年か―――今まで人知れず変身して戦ってきたけど、テンションもあげていたけれど―――いざバレそうになるときついよなぁ)
出席番号五番、
魔怪人討伐数78。
(魔法少女だったらギリギリわかる、わかるよ………でも魔法少年って、いや、何それ?)
出席番号六番、
魔怪人討伐数81。
(いるのかねえ………、今どき魔法少年。ボクもそう思うよ、いるとして何十年前?昭和?)
出席番号七番、
魔怪人討伐数99。
(言いたくはないなー。できれば隠し通したい。あのホラ、姿を隠す、それこそヒーロー)
出席番号八番、
魔怪人討伐数62。
(うーん、ちょっと待ってくれ今のご時世。このタイミングで『魔法少年』って………)
出席番号九番、
魔怪人討伐数122。
(まさかの魔法少年。
出席番号十番、
魔怪人討伐数98。
(クラス中の笑いものだぜ。なんだよお前、魔法少年だったのかよ、ぎゃはははは―――って、バレたら)
出席番号十一番、
魔怪人討伐数119。
(一生の不覚だよなぁ。中二病とか目じゃあないくらいの騒ぎだぜ。契約して正義の味方になったときは、そりゃ有頂天だったけどな―――あははははッ)
出席番号十二番、
魔怪人討伐数109。
(バレたくない。ねーなァ)
出席番号十三番、
魔怪人討伐数97。
(バレずに済むならそれに越したことは無いけれど、こりゃあマズい状況だ。ううん、ステッキで戦うしかないだろうね、飛行機を守るためだ。僕が出ていかないといけなくなる)
出席番号十四番、
魔怪人討伐数98。
間藤中学校二年二組、在籍するクラスの男子生徒数は十四名。
―――そのうち、『魔法少年』数―――十四名。
魔法少年は、日夜魔怪人を倒し、日本の平和を守っている成長期の男子。
魔怪人総討伐数は実に1323を数える、正義の軍勢。
現代の日本の平和を守護する、魔怪人討伐の
秘密。
秘密はなにも、女子だけの特権ではない。
男子生徒は男子生徒で、中学生であることは変わりない。
難しい年頃、としばしば表現される彼ら。
あまり他人に口外できない悩みくらい、持つものだった。
その悩み、制限しなければならないもの。
マジカルマスコットと契約時に交わされた決まりごとであった。
実際、人に真実を伝えても信じてもらえはしないだろうが。
その行動はただ混乱を増やすだけであるし、マジカルマスコットとの契約内容でもあった。
魔法少年になる時の条件を男子もまた、順守しようとしていた。
それは、すなわち―――。
((((((((((((((クラスのみんなには黙っていないといけないからな))))))))))))))
誰にも明かさない―――。
これには一般人を戦いに巻き込まないためなど、安全上の理由がある。
そうして完成したのが現在の
――――
結論から言うならば。
彼ら彼女らは、このあと修学旅行の目的地、サイパンの島にたどり着くことは出来る。
この後、目的地である南国の島に上陸する。
ただし―――そこで彼ら彼女らは全員、戦う事となる。
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