第5話 立ち上がれ! 魔法少女達よ!
「……出て来ない、か」
魔法少女が飛行機の中から出てこない。
まだ突っつき方が足りなかったか、と落胆する。
修学旅行に向かう生徒が搭乗している飛行機の主翼、その左端で思案を続けるバルルーン。
彼は焦っていた―――。
不安を感じ始める、なかなか現れない敵に対して焦り始めていた。。
魔法少女が出てくるとして、もうそろそろ出てきてもいいタイミングだと思うのだが………。
「なんだ、もしかしていないのか?」
いない。魔法少女がいない。
すると、魔怪人組織からの情報が間違っていたということだろうか?
いやそんなはずはない、上からのデータ情報のみではなく、実際に現場にいる俺ならば感じられる。
魔力が、はっきりと感じられる。
僅かに残滓が漏れているにしては、多いくらいだ。
全く気付かないことはない。
正確に言うならば魔力の残滓―――はっきりとしたものではないが、確かに気配はある。
他の下級魔怪人ならともかく、オレにはわかる。
それに機内に―――いなかったとしても、奴ら魔法少女は、人々が襲われているなら、どこからでも駆けつける。
バルルーンは再び水泡の形状のエネルギー弾を生み出し、機体側面にぶつける。
機体の側面が、激しく音を立てて金属面が凹む。
この攻撃は爆発音が大きくなるように調整し、加減を変えた―――破壊力は大して上がらない。
人間がより恐怖を感じる、それを目的とした攻撃であった。
―――
どおん―――、と機内に響く。
揺れる機内。
春風若葉は思う。
駄目だ、このままじゃあ飛行機が落ちてしまう、みんなごと落ちちゃうわ。
私が変身しないと皆が助からない。
がたり、がたがたがたッーーーと音がした。
渡良瀬ちゃんも立ちあがっていた。
ていうか周りを見れば、何人かが立ちあがっていた。
いつも顔を合わせているクラスのみんな。
この状況に戸惑っているような、緊張感が顔色に表れていた。
額に冷や汗を垂らしていたり、歯を食いしばっていたり、皆同じような表情だ。
お互いを見あって―――一斉に言うのだった。
言い続けるのだった。
「ちょっとトイレに」
「最初に行くって言っただろ」
「まってよ!」
「一人ずつ行こうぜ!あれは個室だ」
「トイレ!」
「私はトイレには行かない―――保健室よ」
傍から見ていればくだらないトイレ合戦が始まったように見える。
が、言いようのない奇妙な空気があった。
なんで?みんな―――トイレに行きたいの私だけじゃあないみたい。
女子が、多いようだけれど。
まさか本当にこう―――アレだよ、もよおしているしているにしては少しおかしい。
………ていうか保健室って何だよ、ここ飛行機なんですけど、学校じゃあないんですけれど。
その騒乱。
混乱の中に、奇妙な深刻さというか、切羽詰まった何かがあった。
皆、ふざけている様子とはすこし違う、。
――――
バルルーンは不思議に思った―――空の上で首をひねっていた。
鳥型魔怪人の彼の首は、鳥類らしく、あるいはそういう設計のロボットのごとく、機敏に動く。
くいっ、くいっ―――と動くたび表情を変える。
「おかしい―――いつまでたっても魔法少女が出てこない」
全く―――これで一方的に飛行機を落としてしまうではないか。
人間を守る気がないのか?
まったく、しらけるぜ。
「おいおい、無抵抗の人間が傷つくぜ?死ぬぜ?たくさん死ぬぜ?おーうい………」
内心困惑が生まれていた。
魔法少女と戦う事に迷いはなかった。
心づもりはあった。
この任務はその場合の準備もしていたのだ。
侵略はしてみせる。
だが侵略に苦難は付きものだということも、経験上知っている。
奴らは俺たちの組織の邪魔ばかりする、正義の味方を自称する迷惑な集団である。
魔怪人の天敵だ。
ただ飛行機の―――金属の塊、反撃をしない物体を壊すだけ?
人間を襲うという、当初の目的、主目的は達成している。
これで順調だな、作戦は。
人間の恐怖をもっと、駆り立てる―――!
―――――
一方そのころ。
悪の組織の魔怪人バルルーンの思惑とは異なり、機内では論争が起きていた。
人間たちによる、世にも奇妙な大論争である。
「トイレに行きたいのォオオオ!」
「それは私も」
「アタシ来る前にアイス食べてさ」
「だから?」
「だからって決まってんじゃん、お腹冷えちゃってさ」
「私?私はただ、一人になりたいだけだ」
「アタシもー」
「あーもー!みんなうるさすぎ!私もう行くから」
「待てよ行くったってどこに行くんだよ、外に魔怪じ………悪い奴らがいるんだろ?」
「私は元々孤独を愛する者だよ、大衆とつるむのは肌に合わないわ」
「おまえ中二病かよ!」
「何を根拠に」
「はぁ?何言ってんの、一人になりたいっていってるだけ!」
「待ってよ一生のお願い!一生のお願いだから」
「わたしもわたしも」
「みんなやめて!こうしましょ!じゃあ順番、まず私トイレに行って」
「ここで墜落する運命なら、それに従うしかないわ、でもその前に廊下に行ってもいいかしら?」
「こんな頭のおかしい連中の中にいられるか!俺は勝手にやらせてもらう」
「なあにそれ、ちょ、男子は黙ってて狙木くん」
「うげー」
「座れよ」
「もう我慢できない、行く!」
「ねえ座って。座りなさいよまた揺れるわよ、揺れてもおかしくないんだから」
女子たちの騒ぎは留まるところを知らず、男子の面々もこの奇妙な行動の数々に混乱を極めていた。
何かおかしい。
流石におかしい。
クラスの女子の大半が立ちあがっている。
ここまで騒がしい状態は滅多にない。
何故。
これは何で―――まさか突如現れた悪の組織の攻撃にパニックになった、というのだろうか。
クラスのみんな。
まさか操られてしまっている?
キャビンアテンダントさんのように操られている、操られかけている?
なんてこと―――大惨事、ヤバすぎるじゃない。
それならば有り得るというか、一応の納得は出来る。
彼女たち全員は悪の組織に恐れをなしている、というほうが自然な考え方だが、何かおかしい。
一見すると避難を望んでいるようにも見える。
席を外してそれぞれ逃げようとしているようにも、見えるかもしれない―――まあ空を往く飛行機が人外の存在に狙われたら、なす
だが何かが違うのだ。
困惑を極める―――そもそもみんながいる中でトイレのために席を外すというのは、もうちょっと抵抗感があってもいいものではないだろうか………と、流石に思う。
無理して我慢しても良くないのだが、もうちょっと言い方があるだろう。
お前ら女子なんじゃあねえのかよ。
男子陣はどういった顔をすればいいのか迷うじゃあないか。
観ているこっちが悪いことしている気さえ、ある。
思うが女子陣は皆、ふざけている様子でもないのが奇妙だった。
そうやってここを立ち去ろうとしている、機内の位置、客室を脱出しようとしている女子たちのなかで、事態が始まっていた。
思考、意向。
彼女たちはそれぞれの思考の中に、焦りがあった。
彼女らは外からの悪の組織、魔怪人の攻撃に対して、純粋に焦りを感じているのである。
彼女らの心境はこうだった。
(―――もう、なんなの、私、はやく変身して戦わなきゃいけないっていうのに)
そう思案したのは出席番号二十三番―――
現在、魔怪人討伐数89。
(時間がもう、ない。みんなを守る。でもその前にどこか隠れるところは……?ええい、どうしよう)
そう思案したのは出席番号一五番 ―――
魔怪人討伐数92。
(―――どうしよう、このままじゃあ皆も危険なんだよ、お願いだから伝わって?)
そう思案したのは出席番号一六番 ―――
魔怪人討伐数95。
(困ったわねぇ―――せめて町の中で襲われていたらなァ)
そう思案した出席番号十七番、
魔怪人討伐数138。
(そうすれば少なくとも変身は出来るネー。建物の影とかで、変身するタイミングもあっただろうにネ?)
出席番号十八番、
魔怪人討伐数、59。
(どうしよう、どうしよう)
出席番号十九番、
魔怪人討伐数114。
(ドクール、ねえドクール、みんなをまとめて避難させる魔法とかないの?)
出席番号二十番、
彼女にしか見えないマスコットは、無言で首を振った。
魔怪人討伐数104。
(すごく困るなあ。困った子たちだなぁ、こうなるともう、邪魔だなクラスのみんな)
出席番号二十一番、———
魔怪人討伐数は122。
(ミラクルめんどくさいんですけどォ。さっさと私が可愛い魔法少女に変身してチャチャッと戦いたいんですけどぉ~ッ)
出席番号二十二番
魔怪人討伐数81。
(それにしてもみんなどうしたのかな、私が行くって言っているのに。いや言えないけど………。この場合、私がやっちゃうしかないよね)
出席番号二十四番
魔怪人討伐数101。
(魔法少女である私を皆に見せる日―――今日がその日なのかしら、ついにその日が来た?運命を感じるわね、ふふふふ………)
出席番号二十五番、
魔怪人討伐数113。
(気乗りしないわ。ぜんっぜん嬉しくないわね。恥ずかしいわ)
出席番号二十六番―――
魔怪人討伐数99。
(みんな驚くだろうなぁ。クラスに魔法少女なんかいたらさぁ………けれどとにかく、魔怪人は倒さなきゃ)
出席番号二十七番―――
魔怪人討伐数78。
(ああ―――でもバレるのはちょっと、嫌だなぁ?)
出席番号二十八番―――
魔怪人討伐数59。
全員、トイレに行く気などさらさらない。
そんな彼女たちだが、一つの共通した意識がある。
意識というか、願いというか。
もはや染みついた習慣でもあった。
((((((((((((((私が、いつものように魔法少女に変身して戦う))))))))))))))
という、正義の戦士としての心構えである。
そしてマジカルマスコットから言い渡された、その条件も守ろう、遵守しようと心を決めていた。
それは一見簡単そうに見えて、守り続けるのは困難なルールだった。
魔法少女であることは他言無用。
秘密である。
別の言い方をするならば、正義のヒーローは正体を隠す、という事だ。
市立
そのうち、魔法少女数―――十四名。
総討伐数は実に1344を数える、正義の軍勢。
日本の平和を守るという使命を背負った少女達。
魔怪人討伐の
バレては、いけない。
クラスのみんなにバレてはいけない。
それは押さえておきたい条件だ。
今までひたすら順守してきた
まずは一人で抜け出して変身をして、戦いたい。
間藤中学校二年二組。
それぞれの生徒に個性は有れど、今、意向は一致している。
女子全員が思ったことがある。
((((((((((((((クラスのみんなには、ナイショにしないといけないからなぁ))))))))))))))
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