35.生ける屍

差し出せるものならみな差し出そう


いかにそれらが大事でも 両手両足を失うよりはましだろう

いくらそれらを大切にしていても 両目両耳を失うよりかはいいはずだ


でもそれは生きてゆこうとするのであればの話

光ひとつ見えないこの世界でいったい何を糧に生きようというのか


両手両足を失ってでも 手放せない大事なものがあるはずでは?

両目両耳を失ってでも もう二度と見つけられないそれを大切にしたいのでは?


暗闇の向こうに待つ何かは 命を欲している 心を欲している

人ならざる者の願いは 人になることではない 人にだけはならぬことだ


両手も両足も差し出そう 大事なものに代わりはないのだから・・・

大切なものを譲れはしないのだから 差し出そう両目も両耳も・・・


光ひとつ見えないこの世界で生きようとする者よ どこへ行こうというのだ

命を手にしても 心を持とうとも 人になってしまってはお仕舞いではないか

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