33.万死

この世には悲しいことがあって でもそれだけでは泣けない僕がいて

だから悲しいだけで泣ける人間になれたらと

人の死を見聞きするだけで涙を流せる人間になれたらと

そう願ってやまない僕が 今さらそんな上辺だけの人間になれる筈もなく

もう疾うに僕の人間としての器は知れていた


この世にある悲しいことは 一つ残らず死に置き換わって見え

そしていつしか僕の目は その光景に慣れてしまっていた

人の死は涙などではなく 言葉に変わるばかりだった


皆が本当の死を前に涙するのを横目に 僕は「詩」を書くことでその死を弔おうとした

それが僕のすべきことであると その時だけは信じた


この世には悲しいことがあるけどそれはなぜだろうと考える

行く末に死が待っていることにいつも怯え それこそが悲しいことだと結論付ける

悪循環などではなく 思考は常に一方向だけに回路を伸ばし 僕をこの世と断絶せんとする

それでも僕の口にする死は 本当の死の前でさえも本当にはなれなかった


なぜなら言葉にしてしまったから


悲しいだけでは 人の死を目の当たりにしただけでは泣けず 故に涙も流れなかった

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