15.抱腹と絶望

空虚な時間が過ぎようとしていた

堪らず声を上げたのはひとりの老人だった

言葉にはなっておらずただ口をわずかに開き呻くだけであった

杖をつきしわに塗れた顔を歪ませ骨と皮だけになった体を震わせていた

それを見たひとりの子供がケタケタと笑い始めた

文字通り腹を抱えて笑っていた

しばらくして笑いが治まると思い出したように老人に罵声を浴びせ始めた

それから杖を取り上げ地を這うことしかできなくなった老人を蹴り上げた

老人は地を転げたが呻くことはなかった

それを見た子供が申し訳なく思うこともなかった

ただただ老いた体で生きるその人に対し嫌悪感を抱くまでであった


それからまた空虚な時間が過ぎ子供は老人になっていた

そのことに気づいた老人は堪らず声を上げた

言葉にはなっておらずただ口をわずかに開き呻くだけであった

それを見ていた子供になぜか罵声を浴びせられなぜか杖を取り上げられなぜか地を這うその体を蹴り上げられた

老人は地を転げる前に走馬燈を見た

「因果応報」という言葉を初めて知った時の自分を見た

しんと静まり返ったそこに堪えきれず笑う子供の声がこだました

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る