第6話

「どういうことなの?演出って何?もしかしてあたいを馬鹿にしているの?」

「いいえ、そんなことはありません。いやありやせん」

店主の男が言った。「ふざけないで。何よありやせんって。口調も馬鹿にして。謝るには謝るなりの口調ってものがあるでしょう」

「すみません。ですがこれも歌舞伎とかシルクドソレイユとかのエンターテイメント的な考えから起こしたものです」

「でも、誰も集まっていないってことは人気がないっていうことでしょ。つまりやる意味がないってことじゃない」

「まあ確かにそうかもしれません。これはただの私どものストレス解消だと言われれば、否定は出来ないかもしれません。しかし、万が一でもこれがマスコミの注目を集め、一気に火種から燃え盛る炎にならないかななんて、考えもどこかにございまして、御覧の通り、この商店街は今や廃れています。一昔前はそりゃあもう芸能人とかも毎日のようにテレビ取材に来ていたものでございます。しかし……」店主の目からは涙が、でも今回の涙は先ほどの涙よりも更に悲壮感がましていた。そうかこれが本当の涙なのね。「分かったわ。許してあげるわ。ではさようなら」「ちょ、ちょっと待ってください。どうぞこれを」そう言って、店主はおでんの卵と、大根を容器に入れて、あたいにくれた。「これは私どものくそな演劇に付き合ってもらったせめてもの償いでございます」「付き合ったっていうより、付き合わされたんだけどね」まだ怒りが収まらなかったからなのか、ついつい毒が出てしまったが、それでもその卵と大根はありがたく頂戴することにした。そしてお金を払うことなく、あたいはおでんを手に入れることが出来た。

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