第4話

おでん屋に到着したあたいは、おでんが入っている銀色の容器の中を見た。そこには薄茶色の液体の中に大根、卵、などの具材が……というこ大根と卵しか具がない?あたいは店主に聞いてみた。「どうして具がこれしかないの?」すると店主が「へへへっ、ここはでーこんと、てめごの専門の店なんだい」店主は江戸っ子のように、てやんでい風な仕草をした後、あたいに言った。「ふーん。そんな風変わりなお店もありんすね」あたいも店主の独特の言葉遣いに毒されてそう言った。「こらー待てー!泥棒めー」店の奥から騒がしい声が聞こえてきた。泥棒?どこにいるの?と思ってきょろきょろと辺りをどこか他人事のように能天気に見回していたら、先ほどの店主が「へへへって、べらぼうめ。見つかっちまったかでありんす」と言った。なにそれ、あんた店主じゃなくて泥棒だったの。しかもあたいのさっきの口調が混じっているし。あっそうかあたいの口調を盗んだのね。この泥棒は。店主はまるで銭形がルパンを追いかけるような漫画的な仕草で手に持った手錠を上にあげながら、泥棒へと駆けて行った。「あっこれは100均の手錠だから」本物の店主があたいをチラ見しながらそう言った。「こらー待てー、具材泥棒。具材をいつもいつも大根と卵だけにしおってー!!」何それあの泥棒が具材を入れ替えたの?サイテー。っていつもいつもって何それどんな世にも奇妙な物語なのよ。あたいは心の中でため息をついたりつかなかったりした。どうしてため息をついたりつかなかったりしたかって言うとね。実はあたいはすごく面白い事件に遭遇して、心のどこかでわくわくしているあたいを見つけてしまったからなのよ。不謹慎かもしれないけどね。そして本物の店主が戻って来た。手には、しらたきを一つ手にしていた。「取り返せたのはこれだけだ……」店主の目からは涙が悔し涙が零れていた。あたいはどこかシュールなその光景に不謹慎な笑いが込み上げてくるのを心の中で抑制した。

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