もしかして、もしかしなくても
「今日から一週間、仕事は休み。ただし、利益の高い依頼があったら受けるからそのつもりでいなさいよ」
急遽降って湧いた長期休暇を宣言するアンジェリカの言葉に朝食の後片付けをしていたキャサリンが可愛くやったあと声を上げ、途端に上がった機嫌の良さが溢れる様に鼻歌まではじめた。優しい目でそれを見守りながら手伝いをしているカトリーナに食べ終わった皿を渡し、ポットに淹れらていた珈琲をカップに注いで考える。
なにをしようか?
筋肉痛のぎこちなさで珈琲を溢さない様にすり足でゆっくりと席に向い、座る。
大至急しなくちゃいけない事はキャサリンに握りつぶされた自室のドアノブと、伴って破壊された鍵の修理だ。
壊されたせいかドアがきちんと閉まらない。閉じれば一旦は閉まるのだが少しするとキィと小さい音を立てて自然に開いてくる。ぶっちゃけホラー染みていて怖い。
これに気が付いたのが昨日の夕方の薄暗い時なのも相まってパニックを起こしバーバラの名前を安売りの様に叫び連呼した。神聖術ってお化けへの特効術持ってそうだったのでつい。勿論バーバラ以外にもオネエさん達が来た。
マチルダ? 訳を話したら爆笑してたよ。
アンジェリカ? 隣の部屋に居たのに一番後から来て鼻で笑って帰ってったよ。
魔術師酷くね? それに引き換え前衛系の三人はとても心配してくれた。
優しいバーバラは壊れたドアノブが原因だと判明しても、お化け怖いシンドロームを発症していた私を慮ってお化けに効くなんかキラキラした術を部屋全体にかけてくれた。あとまた異常解除もかけられた。そこまで恐慌状態になってはいないと思うんだけど。
問題のドアノブは壊した本人が責任を持って対処する事になって、現代人感覚の私は交換用のドアノブを買ってきて修理をするのかと思ったらそこは異世界、やっぱり次元が違った。
簡単に蝶番が外せるのでドアごと修理屋さんのとこに持って行くそうです。
マッチョだから簡単に蝶番が外せ、マッチョだからドアごと持って行く、と所々にマッチョだからと注意書きをしたくなる方法だが、ホーム内一のマッチョであるキャサリンらしい解決法である。いや多分、全員同じ解決法を選びそうではあるけど。皆、意外と脳筋だからなあ。
そんな訳でドアに関して私はノータッチなので特にする事がない。
ヤバい、早速暇を持て余した感半端ない。いやいや筋肉痛だから今日はゴロゴロして身体を休めればいいのだよ。休みに何もする事が浮かばないとか、はははまっさかそんな寂しい大人だなんて事があってはいけない。いけないっ。
自分自身により精神的打撃を受け、飲み終わった珈琲カップもそのままにフラフラとテラス戸の方に歩き、朝陽が燦々と降り注いでいる長椅子に顔から倒れ込む。
どうしよう。遊んだりする友達が居ない。今はオネエさん達は除外する。だってそうしないと……。
お仕事もオネエさん達と一緒。
お家でもオネエさん達と一緒。
買い物もオネエさん達と一緒。
遊ぶのもオネエさん達と一緒。
ヤバくね? これまじヤバくね??
そういや私こっち来てから肉体が同性の友達いなくね?
え、ほん、ちょ、まっ、ヤバくね!?
埋めていた顔を横にずらし死んだ目をしてまじヤバイとぶつぶつ口に出していると、いつの間にか近寄っていたバーバラに声をかけられた。
「ちびさん今日は何か予定はありますか?」
今一番触れてはいけない話題を容赦なく振るバーバラにもう泣きそうだ。
「……筋肉痛ひどいから……ゴロゴロする、……予定」
「そうですか。なら石鹸を買いに行くのを付き合って下さいませんか?」
心が大泣きしてるのをなんとか悟らせないよう気力を振り絞って今日の予定を述べたのになんでそうなるの。
人の話しはちゃんと聞きましょう。筋肉痛が酷いって言ってるの。なんでそこで「なら」という言葉が出てくるんですかバーバラさん。
私の痛いし面倒だという空気を察したのかバーバラは両手を自身の胸で重ねて軽く当てると「大いなる癒しの女神よ、どうか御名の許に祝福を」と言って私に手を向け、回復術を発動させた。
「ちょっおいぃぃぃぃ、それ最上級の奴じゃねえか!!」
「欲しい石鹸がわたしだけだと少し入りずらいお店に売ってまして、困ってたんです」
私のツッコミ虚しく、爽やかな笑顔でそう言ってのけるバーバラだが明らかな魔力と神聖術の無駄使いでしかない。
皆さん、これがプロの犯行です。こうやって絶対に心身の不調を言い訳に出来ない状況に持っていって了承させるのです。たかが筋肉痛にHPMP全回復、おまけに状態異常まで直しちゃうよ!と言うなればエリクサーを使用されてしまえば断る手段がない。だって超元気だし。さようなら私の成りかけの筋肉。
普段だったらこんな魔力消費の激しい術は緊急時用の為に温存しておくのに、随分気前がいいぞ。バーバラも休暇で舞い上がってるのかな?
まあ休暇を楽しむのは良い事だ、と思考を切り上げると同時にだらけていた身体を起こす。
バーバラに向き直ってどこら辺にある店なのか話していると会話への参加者が一人増えた。
「ああ、あの店に行くのかい? 丁度いい、俺も気になってたんだ」
おい、なんでさらっと一緒に行く感じになってんの。
繊細なプライドが傷付いてとても外を歩けそうにないんじゃなかったのかマチルダ。
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