前門の重量級マッチョ後門の細マッチョ
まさに混沌。その一言に尽きた。
ぐずぐずな鼻と涙をキャサリンが差し出してくれたハンカチで拭い、豪快に鼻をかむ。「落ち着いた?」とカトリーナが優しく背中をさすってくれながらの問いに、大丈夫と返す。
いきなり号泣しだした私を困惑しながらも必死に宥めてくれたカトリーナとキャサリンには頭が上がらない。私を庇うようにしてマチルダとバーバラと対峙しているキャサリンの後ろ姿を見ながら、今度二人に感謝の気持ちを表してなにかしようと決意した。
私が駆け寄る際に口走った言葉が号泣の元凶ではと気付いたキャサリンは、現在マチルダとバーバラを尋問中である。いつも明るい彼女にしてはかなり怒っているみたいでキャサリンの声色は少し低い。これは眉間にも皺が寄ってそうな雰囲気だ。
普段優しい人が怒ると怖いというが、キャサリンの場合は感情豊かで表情が顔に出るタイプなだけに怒るとめちゃくちゃ顔も怖くなる。普段接してると忘れがちだけどキャサリンは騎士然とした壮年の渋さがある顔つきだ。その顔を怒りで歪ませるのである。私だったら即刻ごめんなさい案件だ。
「マチルダ、バーバラ。一体何をしたの? おちびちゃんがこんなに取り乱すなんて余っ程よ!」
「心外だな。俺はただちびちゃんを労わっていただけなのに」
キャサリンの普段より少し低い声に、マチルダはマーティンで返す。マチルダの男の様な言い方、声にキャサリンは一瞬息を呑み、掠れるほど小さい声で「マチルダ」と呟いたのが辛うじて聞こえた。
何とも言えない、不可解で妙な空気が漂う。マチルダのいつもと違う様子にさすがのキャサリンも困惑しているのか黙ったままだ。横に居るカトリーナを窺えば難しい顔をしていた。やっぱりマチルダに何かあったんだろうか? 小鳥ちゃんの言霊かと再度考えが過ぎるが、バーバラが反応しない上にマチルダはついさっき私の言霊を解除している。なら小鳥ちゃんの言霊も同時に解かれているのでその可能性もない。考えが纏らない中、どうしたらと途方に暮れかけるも、救いは案外早くやって来た。
それは私達の背後から、鮮やかな赤を思わせる声の持ち主が、呆れたと言わんばかりに声を発した。
「ちょっとアンタ達。いつまで経っても帰って来やしないで、なに遊んでんのよ」
声の方向に振り向くと、普段着のローブにカーディガンの様な長い上着を纏ったアンジェリカが、片手を腰に当て不機嫌そうに立っていた。アンジェリカのいつもと変わらないその様に、知らぬ内に詰めていた息を吐きだした。
アンジェリカは対峙する形になっているキャサリン達をちらと一瞥にとどまらせ、ゆっくり歩いて私の傍まで来ると顔を覗き込む。目が合ったと思うとすぐに今度は身体全体を眺められ、器用に片方の眉を吊り上げながら言い放つ。
「ひっどい有り様ね、おちび」
あんまりな言い草だが反論する元気はもう無い。せめてもの意思表示として肩をがっくりと下げて、それを返事とした。
疲れ切った様子の私にアンジェリカはため息を吐き「少し眠ってなさい」と口にすると同時に私の額に手を置く。途端に襲ってくる眠気に、これ幸いとばかりに特に抵抗せず受け入れた。
本当、もう色々疲れた。
あとは任せたアンジェリカ。
心のうちでそう思いながら視界が閉じていき、力が抜けていく身体を誰かの腕が受け止めてくれた。
その感覚を最後にぶつりと私の意識は途切れた。
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