逆ハーレムでは断じてねえって言ってんだろが!
貞操観念がしっかりしたこの世界になぜか来てしまってから早数年、逞しくも優しいオネエさん達に支えられて、なんとか生きていく術を身に付け平和に生きています。
絶賛、欲 求 不 満 中 だけどね!!
もう駄目。やばい。あれから私だって恥かしいのを我慢してオネエさん達にカミングアウトしたさ。 ちゃんと自分の世界の貞操観念や生娘じゃないこと、現在欲求不満だってこともね!!
もう流石この世界の方々です。オネエさん達の反応は凄かったですよ。特に約二名は悲痛な涙を流しながら私を抱きしめてこう叫びましたね。
なんて酷い世界なの!! って。おい、そこじゃねえよ。
初めて抱擁で殺されるかと思いました。ええ。ついでに私の欲求不満の言葉は見事スルーされました。
結局、カミングアウトしてなにも変えることが出来なかった。え、なに、私、恥かき損じゃん。
なんかそれからオネエさん達には男に酷い目にあった子的な目で見られるし。いや間違っちゃないが意味合いが違うからね? 結果的に男運は悪かったけどその時は真剣にお付き合いしてましたし。
これでもオネエさん達に食い下がって一夜だけの夢を求めに行くとぶっちゃけて言えば。
時間が解決してくれるわ。 だ と よ !
ちげーよ!! 全くもってちげー!! 私のは別に心に闇を抱えて男を求める的な行動じゃねえ!! いたって純粋な性欲からなる男漁りだ!! 時間かけちゃ駄目なの、なんも解決しないから! 逆に悪化するわ!! その分蓄積されちゃって!!
誰か助けて下さい。手は差し伸ばされてもいりません、もう自分の手で飽きました。手より雄おっ立ててくれるだけで充分です。そしたらもう自分であとは動きますんでご安心下さい。
下半身出してベットで横になってるだけの簡単なお仕事ですがいかがですか?
もう一度言おう。私は欲求不満だ。
予定より早い時間に目が覚めた。今日は仕事の日だからそれは別に構わない、いつもはどうせオネエさんに起きなさいこの寝坊助! といって布団引っぺがされて起こされるのだから。求む目覚まし時計。
顔を洗いに行けばまだ誰も起きてないのか毎朝恒例の身支度戦場が静まり返っている。鏡に映る自分のなんとも酷い顔。原因は分かっている。昨夜も失敗したからだ。
完璧なはずだった。オネエさん達にはお酒飲んでくるって言って、そのまま連れ込み宿もやってる酒場には無事着いた。嘘はついてない。酒場だし。店の中には女を買いそうな男も居た。声をかける勢いが欲しくてカウンターで酒を飲んでたのが拙かった。
お嬢さん、隣いいかい? 低くて腰にクるようないい声が横からかけられた。その声だけで私は今夜のターゲットをこの人に即行決めて、少しでもイイ女に見えるよう意識しながらどうぞと横を向けば。
オ ネ エ さ ん で し た 。
そのままカウンターに突っ伏したわ。いい音なったよ。
もうねもうね。絶望した。本当絶望した! 私の期待を返せよ、なんでこんな時だけ素の声だしてんの? それ確信犯だよね。いつも裏声しか聞いてないからまんまと引っ掛かりましたよ。死にたい。よりによってオネエさんに一瞬でもグっときてしまったなんてっ!!
景気づけに酒なんか飲まないですぐに男漁ればよかったと後悔しながらオネエさんのお説教(裏声)聞き流してれば、人が突っ伏してんのいいことにちょっと聞いてるの? とか言いながら頭叩き始めやがりましたよ。聞いてません。聞きたくありません。しかもよりによって仕事上がりの素の恰好とか腹立つ。せめて正装してきて下さい。少し泣いたのは内緒だ。
ダイニングの椅子にだらしなく座り、元の世界の珈琲によく似たものを飲みながら昨夜の苦い失敗を思い返していれば重量級と察することが出来る足跡が近付いてくる。さあ、いつもの朝の始まりだ。
仕事の依頼を受けに傍から見ればイケメン(ただしマッチョ)を侍らして逆ハーしちゃってる痛い女な私は依頼仲介所(ギルド)の扉を通る。もちろん最後尾でだ。いつものように依頼はオネエさん達に任せて私はイイ男探しに没頭する。朝は人がいっぱいで眼福です。あ、インテリ系の人けっこうタイプかも。ローブだから魔術師かな? でもこの人もどうせ童貞の処女専なんだろな。くそ。童貞とか処女なんて滅びればいいのに。私にも選択肢をくれ。
他にもイイ男はと眺めていればこんな血生臭い場所に不釣合いな可愛い女の子が入ってくるのが見えた。え、てか、この子めっちゃモンゴロイド顔なんだけど?! ぶっちゃけここの街はコーカソイド顔だ。羨ましい。いいさいいさ、モンゴロイドな私は適応力に優れてることを誇りに生きていくさ。
懐かしい感傷に浸っている間にオネエさん達が依頼手続きを終わらせたので内容を聞きながら出入り口の扉に皆で向かっていた歩みが止まる。必然的に最後尾に居た私が先頭だ。その私の前に立ち塞がるように先ほど見たモンゴロイド仲間のかわい子ちゃん。あ、なんか嫌な予感する。仁王立ちしたかわい子ちゃんはビシッと効果音がしそうな勢いで私を指さし、勘違いな妄言をはきやがった。
「彼らを自分の欲望の為に惑わすのはやめなさい!」
盛大な溜息が出た。どちらかと言えば私の欲望を彼女らは悉く阻止している。だから逆ハーしてたらこんな欲求不満じゃねっての! 自慰はとっくに飽きた。生の男をくれ。
ふんすっと鼻息荒く私を睨みつけるかわい子ちゃんにもう一度溜息を溢し、さっきまで賑やかだったのが嘘のように静まり返っている依頼仲介所を見回し、諦めと羞恥から二度目の溜息はやたら長かった。もうやだ。今度からは街の門で待ってようと決意しながら、かわい子ちゃんの誤解を解こうと口を開いた。
と思ったらすぐに塞がれた。後ろから。誰にって? 決まりきっている。オネエさんにだよ! 抗議を込めて口を塞いでるオネエさんに振り返れば見なきゃよかったって後悔する。にたあと口角を上げて面白いものをどうやって楽しんで遊ぶか考えている笑顔(には見えない)を浮かべていた。ぞっとした。これはもうやばい。真っ青になって居る私なぞお構いなしに静寂を破ったのはオネエさんの一人。私の横まで出てきて、かわい子ちゃんに返事を返した。素の声で。おい。
「心外ですな。このジェラルド、惑わされてなどおりません。自分の意思で彼女と共にあることを望んでおりますゆえ」
待てーーー!! おい、キャサリンちょっと待て!! 何言ってんのキャサリン、目を覚ませ!! あんたはキャサリンだろうがっ、ついでになに男装ってんの?! そりゃ一番のマッチョだからその口調似合う……って違う! 断じて私は騎士っぽい重量装備も相まって素敵とか考えてない! お願いいつものキャサリンに戻って!!
口にある手を取ろうともがいていたら、その手の持ち主がなぜか私を後ろからそっと優しく包み込むように抱き付いてきた。ぞわっと一瞬で鳥肌が立った。悪寒までしてくる。
「そうですよ、私達は各々が望んで彼女の傍にいるのです。ほら、驚いて我らが姫君が声を失ってしまいました。どうか貴女の愛らしい声でギルバートと私の名を呼んで下さいませ」
塞がっていた手がいつの間にかなくなって、私は思いっきり叫んだ。
貴様もかアンジェリカーーーーーー!!!! だが悲しいことに声が出ない。アンジェリカてめ、いつ沈黙の魔術かけやがった!!! 怒りを込めて後ろに蹴りを入れれば優雅な仕草で避けられた。魔術師なのに流石は細マッチョだ。キレが半端ないな。でもあとで覚えとけ。
私とアンジェリカの攻防をまるっと無視してかわい子ちゃんはさらにオネエさん達に燃料を投下した。
「いいえ! それは彼女の力で惑わされているからなの! そこの貴女! この世界の人達は一生涯に一人、心に決めた人としか人生を共にしないのよ。貴女がやってる事は彼らを幸せにできないわ!!」
言われんでも知っとるわ、ボケ。あとかわい子ちゃん迷い人確定な。そんでもって私のこともバレてるね。まあ言い逃れ出来ないぐらいに同郷顔ですし。この場で迷い人とばらされるかと身を固くしたら、いつの間にか握りしめていた右左の拳が別々の方向にすっと掬われ、それに口づけする振りをされる。
「ああ、こんなに強く握ってしまっては愛しい貴女の手の平に傷がついてしまう。一言頂ければこのマーティン、いつでもあの小娘を黙らせましょう」
分かっていたさマチルダ。あんたもこの遊びに確実に乗るってな! ささやかな抵抗で握られてる手に爪を立ててやろうとしたら気配を察したのか右手に拘束の魔術かけられた。動かせない!! ちょっ! 本気出し過ぎでしょうよマチルダ!! これ、対大型対象用の魔術だよね?!
「さあ、姫。傷がないかこのライオネルにお見せ下さい。すぐに癒してみせます」
私の心のダメージを今すぐ癒して下さい、バーバラ。左手を上向きにして傷がないか確かめるポーズを装うためにバーバラが左の固く握られた手を開こうとする。私は開かぬよう全力の抵抗をみせたが、ゆっくり骨が無理やり動かされる音が私の中に響いた。マッチョが力技使わないで!! すごく痛い!! バーバラ、ポーズじゃなくてマジで癒して! そんないい笑顔を向けなくていいから! プリーズ回復魔術!!
左手の痛みに悶絶したいのにオネエ三人にがっちり身動きを封じられてそれも叶わない。痛い、超痛い。泣きそうってか半べそかいてるよ。残る最後のオネエさんが私とかわい子ちゃんの間に入ってきたけどもうどうでもいいよ。なにしたって無駄な抵抗さ。けっ。
「小娘。さっきから聞いていれば好き勝手言ってくれるな。我らが姫の心を傷つけた報い、このクライヴが果そう」
腰に差していた剣をかっこよくかわい子ちゃんに向けるカトリーナ。ノリノリです。心底楽しんでますよね、だって大取ですし。もうここまでくれば私は溜息吐くしかすることないよ。項垂れて溜息してたら後ろにいるアンジェリカに小声であんたも合わせなさいよとお小言を頂いた。誰がするか。はぁー。
「そんな、私の浄化の力が効かない?! でもっ、諦めないから! 必ず皆を助けてみせます!!」
素敵な逃げ口上ありがとうございました。走って扉から出ていくかわい子ちゃんの太ももが眩しいです。若さっていいですね。そんなことを考えて現実逃避してる間にオネエさん達は終わった終わったと満足気に私から離れた。
「どう? 本当に男侍らせてるみたいだったでしょ?」
開口一番がそれかキャサリン。きゃはっとか可愛い声だしても音付きウィンクしても誤魔化されません。成り行きを見守っていた周りもキャサリンの一言で賑やかさを取り戻していく。やっぱなーとかだろうと思ったよとかあいつらに限ってあれはねえよとか同業の皆さまのお言葉が今は一番ありがたい。見事騙されたのは哀れかわい子ちゃんだけである。
未だ解かれない魔術に声は出ないが文句を言えばアンジェリカが沈黙を解いてくれた。まず一番言いたいのは。
「バーバラ、めっちゃくちゃ左手が痛い。ねえ泣いていいよね? これ痛いよーって泣いていいよね? あとマチルダ右手やり過ぎ、なんか感覚までおかしくなってきてるんですけど」
そう伝えれば二人とも慌てて自分の担当していた手の様子をみる。バーバラが素の声でやべって言ったのは聞き逃さない。慌てて回復術かけてるけどこの仕打ちは忘れないからね。あとマチルダ、まだ右手動かないから。解除何回もしても動かないもんは動かないから。よりによって利き手とか勘弁してくれ。
「一応言い訳を聞こうかな。それでオネエさん達はなんでこんな茶番しちゃったんですかね?」
確実に私はいい笑顔を浮かべたことだろう。言い切ってから皆を見渡せば、あんたがいいなさいよ、は?! 最初に仕掛けたのはあんたでしょとか押し付け合いをはじめた。悪いとは思っているのが分かるから私も強くは言えない。だが首謀者、お前は別だ!
「分かった。じゃあジェラルド、答えて」
キャサリンではなくあえてジェラルドと呼んだ。お前が仕掛け人だろう。
「いやあ! そんな可愛くない名前でキャサリンのこと呼ばないで!!」
うるさい黙らっしゃいジェラルド。はよ、理由を述べないとまたジェラルド呼びするぞ。むしろ呼ばせろ、嫌がらせだ。それにしてもこのオネエさん達本来の性格知ってたらあんな妄言吐かないよね。かわい子ちゃんの脳内が激しく心配です。
「だってアンジェリカが目配せするから、いつもは誤解を解くじゃない? だからその反対なのかなってキャサリン思ったの」
頬に人指し指つけて首傾げても可愛くなりませんキャサリン。貴方の今の恰好を思い出して下さい。騎士っぽいんですよ。視線をアンジェリカに向ければやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。腹立つ。真の首謀者の癖に全く悪く思ってない!
「おちび。また昨日の夜も性懲りもなく男漁りに行ったでしょう?」
バ レ テ ル 。アンジェリカの指摘に一瞬ぎくりとして昨夜お迎えにきたカトリーナを睨めば素晴らしい速さで顔を背けられた。カトリーナを責める私を咎めるようにアンジェリカは人指し指を口元の前で振りながらちっちっちっと昭和的仕草をしたが悔しいことに様になっている……! おのれコーカソイド顔め!! 情報共有は基礎中の基礎よとかなにそれ私の男漁りまで対象なの?!
「ねえ、おちび。あの小娘ちゃんの言葉を本当に違うって言いきれる?」
アタシ達が惑わされるってのはないけどねえ、そう言ってアンジェリカは意味有り気な色をのせた視線を私におくってくる。血の気が引いた。相手を選んでると言い訳もできるがやってることは同じだ。……一度も成功したことないけどね!!
やばいやばい。アンジェリカにのせられるとこだった。これだからオネエさん達は怖い。
「違う! 私は童貞になんぞ興味ない!! 肉欲のにの字も知らない清らかなギルバートに指図される謂れはないから!!」
かわい子ちゃんを真似て仁王立ちからの指さしびしっを決めたら青筋浮かべたアンジェリカが素の声でこのガキ!っとこっちに向かってきたのでマッハで逃げた。いや、すぐ捕まったけど。マッチョ怖い。魔術師のアイアンクロー超痛い。そんな私とアンジェリカを見て他のオネエさん達が溜息をついたのは無視だ無視。
私は依頼をこなす前から満身創痍なので急遽のお休みを申し出た。ええ、利き手動きませんし、治ったとはいえ左手も骨やっちゃってますし、顔面とか痛み引きませんし。まあ、あんたも頭数に入れて受けちゃった依頼だからきばんなさいの鬼アンジェリカの一言で強制連行されましたけど。バーバラが顔に回復術かけてくれたから良かったものを。でもバーバラ、これと骨やったのは別だからね。
マッチョ力技、駄目、絶対。
心底疲れた。今日はもう厄日だ。依頼を終わらせてホームのリビングソファーに倒れ込む。さっさとお風呂に入って寝たいところだが私のお風呂の順番はまだこない。汚れが激しい順に入るのがルールだ。基本的に前衛のキャサリンとカトリーナが一番二番を争って、その次がバーバラか私だ。バーバラは癒し手だがマッチョを活かしてごついメイスを振り回すバリバリの前衛もできる。
私ははっきり言うと同情枠だ。マッチョと比べると著しく体格の劣る私は砂埃やら草の汁やら普通に歩くだけでも汚れる。しかも順番待ちしてる時にそのまま寝やすいのもある。これでも普通の女なんです。マッチョと一緒にしないで。
バーバラがもう少しでカトリーナが出るから先に入りなさいと声をかけてくれたのを、夢うつつに返事をする。正直もうお風呂なんていいから寝たい。バーバラにお風呂は明日にすると伝えて朦朧とする頭と体でふらふらと自分の部屋に向かった。もういい。限界。あとはベットに倒れるだけ。力を抜いて布団に埋もれようとしたらお腹に衝撃が襲う、見やればぶっとい腕が私の腹をホールドしている。ついでに頭上から聞き知った裏声。
「ちーびちゃん。髪や顔、身体の一日の疲れをさっぱり落としてから寝るのが、せめてもの女性の嗜みってもんだと思わなあい?」
汚れたままが許せない性質のマチルダだった。安息が目の前から遠ざかって強制的に脱衣所にぶち込まれた。熱いお湯をかけても眠気が飛ばない。これはいかん。最速で出るしかない。無数に置かれたオネエさん達が買ってきては飽きて放置している石鹸をテキトーに手に取ってそのまま頭に擦り付ける。いいかげんに髪を洗って滴る泡を利用して身体も洗う。流せば終わりだ。おっさんとか言うなかれ。これは素晴らしい資源と時間の節約だ。おっさんは自然に優しいのである。
脱衣所に戻ればバスタオルと替えの着替えまで用意してあった。マチルダはいいお嫁さんになれるよ。……嫁ぎ先が見つかる事を切に望む。替えのパンツがいつぞや皆で買った、いや、買わされたヒモパンなのは嫌がらせだろうか。部屋行ったら履き替えよう。パンツと丈の長いTシャツみたいなやつを着てリビングにいるバーバラに出た事を伝えた。
キャサリンが夕ご飯出来てるからと誘ってくれても眠くてそれどころじゃない。断ろうと思ったらカトリーナとキャサリンがトテモイイ笑顔で私を見ていた。前衛職はご飯を抜くことを基本的に許してくれない。うん、大人しく食べよう。日本人の性でいただきますをしてキャサリンの手作りスープに匙を入れた。利き手じゃないだけでこんなに具が掬えないもんなのかと改めてびっくりした。
向かいの席で風呂待ちをしていたアンジェリカが呆れた溜息を吐いた。そのまま席を立ったと思ったら少しして、これで食べなさいとフォークを差し出してくれた。何だかんだでやっぱり優しかったりするから私はあまり怒りが持続させれない。アンジェリカにお礼を言って具の殲滅に取り掛かった。
幸せだなあと思う。オネエさん達は優しく愛情深い。拾って貰えて本当に良かったと心底思う。
だが忘れてはいけない。いくらオネエさん達の名前が可愛らしくても、行動が思いやりに満ちていても。ここまでのオネエさん達はお仕事仕様の容姿である。
皆にスープをよそうキャサリンは夜ゆえに無精髭が目立つ見た目は騎士然とした渋い重量級マッチョである。
配膳や細々とした事をしているカトリーナは涼やかな眼差しでクールな印象を受ける剣士然とした中マッチョ。
いつの間にかお風呂を上がってたバーバラなんて短く切られた髪にマッチする優しげな癒し手然とした好青年マッチョだ。
ここまで鼻歌(裏声)が聞こえてくる現在入浴中のマチルダは長い髪をゆったり後ろで結んで垂れ目がセクシーな秘密を抱える魔術師然とした細マッチョで。
呆れた顔で私の食べ方に文句を言いたそうにしているアンジェリカは前髪や襟足が長く魔術師独特の知性的な鋭い顔で神秘的な雰囲気をまとう細マッチョである。
繰り返す! 彼女らはイケメンマッチョである!!
中身と外見のギャップがあり過ぎ。オネエさん達にち〇こつけた神は見る目がない。いや、外見は男としては完璧だよ? 中身も女性としては完璧だよ? なぜオネエさん達は単体で子供が産めないのか摩訶不思議である。彼女らはパートナーとか不要でしょ。
でもそんなオネエさん達が密かに花嫁に憧れているのを、私は知っている。
「あーあ、出来るんならオネエさん達と性別交換するのになあ。私が女でいるよりオネエさん達が女の方が世界のためだと心から思うよ」
やっと残り少なくなったスープを混ぜながら本心から呟く。皆は苦笑して、誰かが馬鹿ねと困ったように言う。アンジェリカがあんたが男になったら女の敵じゃないのと言うと何人かが笑い出した。つられて私も笑う。ああ、幸せだ。どうかこの幸せが少しでも長く続きますように。
私はオネエさん達の見た目がどんなに異性として魅力的でも一片たりとも彼女らに性的欲求を覚えない。このまま覚えないでいたい。
だから、欲求不満後期な私としては焦りを感じる。
いつかオネエさん達を女の目で見てしまうんじゃないかと。
だから私は男漁りを諦める気はない。
もう少しだけ彼女達と一緒に居たいから。
この平穏を感じていたいから。
そんな私の願いは数日後に突然やってきた人物によって、虚しくも散った。
「ここに居るのは分かってます! 今日という今日は逃がしません。私の浄化で必ず皆さんを解放させてみせます!!」
休日の朝に近所迷惑も考えないで馬鹿デカい声を上げるかわい子ちゃんが、外にいた。狙ったようにホームの玄関前に。
私? もちろんまだ布団です。そしておやすみなさい。
オネエさん達、あとは任せた。私のせいじゃないもーん。しーらね。
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