逆ハーレムでは断じてない!

日暮 千疾

始まりと出会い

逆ハーレムでは断じてない!

 

 周りから紅一点や、お姫様状態やらでいいもんだとか言われるんですが、こう返してますよ。


 本当にそう思う?


 ガチムチマッチョから細マッチョ、マッチョ豊富でマッチョ選り取りみどり! さあいらっしゃい。

 素敵なマッチョ達が休日には入念に髪を梳き、結い上げ。装いも煌びやかに着飾り、無精髭を剃った顔に厚く厚く粉を叩き固めて、貴方の加入を心からお待ちしております。


 そう、彼らは、彼らでありながら彼女らでもあるのです。


 人は言う、【オネエ】であると。



 そんな外見なら妬まれないのではないかって? 甘い! 甘いよ! まるで上白糖の上に三温糖、黒糖を乗せて蜂蜜で固め、トッピングで氷砂糖とグラニュー糖、仕上げに練乳をこれでもかと絞ったパフェ並に甘いよ!!


 彼ら、いや彼女らはプロなんです。オンオフしっかりしてるプロフェッショナルなのです。

 依頼を受ければ即座に普段は「これ可愛くないのよねえ」とか「やだもう、むさ苦しくみえちゃう」だの言いながらそのマッチョに見栄えする堅牢な鎧や魔力を高める防具を装備し、マッチョだから持てる武器を各々手にして依頼を遂行する。依頼に私情を挟まない、まさにプロなのだ。


 そんな頼もしい彼女らとの出会いはまず私の事を話さなければいけなくなる。自分語り乙とか言わないで少しだけだから少し、少し、先っちょだけって何を言わす気だ。おっと失礼。


 まあぶっちゃけ知らない所にいつの間にかいたんだよ。

 仕事の帰り道で角曲がったら、ここ来てた。

 私パニクってたら、明らかに人相悪い人が絡んでくる。

 私ダッシュで逃げて、丁度見かけた賑やかなお店に助けを求めて入る。


 そこは、オネエさん達の、オネエさん達による、オネエさん達のための酒場だった。


 一瞬、時が止まったね。力任せにドアぶち開けたもんだからオネエさん達の視線、私一人占めだし。んで予想外の光景に私ポカーンだし。

 ママさんオネエの「可愛いねずみちゃんがどうしたの? 道に迷ったのかしら?」の一言でやっと助けて下さいって言える正気は取り戻せたけど、オネエの知り合いなんか居なかった私には衝撃的でした。


 まだ酒場の中入ってなかったもんだから、追っかけ来てたゲス顔の人に腕掴まれて連れてかれそうになったのを私の近くに居たオネエさんが「うちの子になんか用?」って言ってゲスい人の腕をこう、なんていうの?武道の達人みたいに相手の腕を捻って背中にくっ付けさせて、助けてくれた。


 ゲスい人の「テメーも変態かよ!紛らわしい恰好してんじゃねえ!」って捨て台詞が気になりましたけどね。あ、私もオネエ認定されたって。いえ、助けてくれたからいいんですけど。


 まあその後は丁重に皆さまにお礼と騒がしてしまったお詫びを述べて、迷子なので道を教えてくれとお願いしたんですけど、まあ、ねえ、うすうす感づいていましたけどね。ここ地球じゃないって。映画やゲームに出てくる恰好や武器持ってる人や、身体的特徴がありえない人いるは、お店なのに電気機器一切無いはでお察しですよね。


 最初はこっちの事をうま~くぼかして話してたんですけど、サービスで一杯飲み物頂いて何の疑いもなく飲んでしまい、それに自白剤的な物が入れられていたもんでペラペラ喋っちゃいましたとさ。異世界の洗礼さっそく受けましたね。疑いもなく飲んだ時点でオネエさん達にあとで説教されましたけど。


 洗いざらい喋って、結果的にはとても幸運でした。大体のってかほぼ疑問は解決。


 昔からたまに迷い人が来るらしい。なのこのファンタジー。

 そんで迷い人は不思議な力を持っている事が多いので、味を占めたやんごとなき方々がわざと迷い込ませようと大々的に活動してる、らしい。いい迷惑だ。

 戻った話しは聞いたことがない。はい、絶望きました~。


 私が言葉を失っていたら優しいオネエさん達から労わりのビールが差し入れられたので、はい。ベロベロに酔うまで飲みますよね、普通。現実逃避です。

 気付いたら路地裏……って事もなく。ゲスい人から助けてくれたオネエさんが回収してくれてました。またもテンパりながらお礼を言ったら、「うちの子っていちゃったからね(はぁと)」と音がしそうなってか、音が聞こえたでっかいウィンクもセットで頂きました。ありがとう、オネエさん。


 これが私とオネエさん達との出会いです。

 その日から、この世界で生きる術を仕込まれ、今では立派にパーティの一員になったと自負しております。


 え、パーティって何かって? ほら、ゲームとかで仲間を作ってパーティ組むじゃないですか。それです、それ。なんでもこの世界は物騒な生き物が蔓延ってるのでそれ用の生業が成立するみたいです。

 オネエさん達のような少々個性的な人は就ける職が狭いらしく、大体がこの危険な職業らしい。まあオネエさん達、生命力めちゃくちゃ強そうですもんね。


 オネエさん達とだと賑やかで楽しいんじゃないかって?

 ええ、すごく、すごく賑やかですよ? 拾ってくれたオネエさんは自分のパーティ仲間(全員オネエ)と共同の家、ホームを持っているので私もそこで寝起きしてるんですが、朝の洗面所争奪戦はすごいですよ。軽く想像つきましたね? それプラス面倒臭がって寝ぐせや髪のボリュームを整えるのをそこそこで終わらせると非難轟々です。お仕事の日はオネエさん達も引き下がってくれるけど、休日のお出かけする日なんかダメ出しが止まらないのが辛い。あと日頃、特にホームでの自由時間とかにも仕草や口調、服装にもダメ出しが頻繁に飛び交います。

 それが身だしなみばっちりの正装オネエさん達ではなく、お仕事あがりの素の状態で言われるもんだから複雑です。


 想像して下さい、油が乗ってきた年代の優れた体格に簡素なシャツを寛げて纏い、容貌は荒事に揉まれながらも粗野に感じさせない、むしろ野性味を生かした端整な顔立ちのいい男がですよ?


 「ちょっと! もっと可愛い下着はないの? 女さぼんのも大概になさいな!」


 風呂に入ろうとした人のパンツ見てこの台詞ですよ? もちろん声は裏声です。

 そのあと他のオネエさん達でどこそこで売ってるパンツは可愛いだ、あそこの新作パンツは過激やらパンツ談義してました。みんな素の恰好で。見た目はマッチョな素敵なイケメン達がパンツ談義。

 次の休日はみんなでパンツ買いに行きました。一枚だけみんなとお揃いのを買わされましたが、えらい過激なヒモパンだったのは言うまでもなく。

 一回だけ、みんなでパンツお披露目した時はトラウマです。詳しく知りたい? いやですよ、思い出しちゃうじゃないですか。あえてヒントを言うならば「やっぱり油断するとすぐ飛び出ちゃうのが困りものよねえ」とのオネエさん達の言葉でお察しください。


 分かって頂けましたか? 彼ら、いえ彼女達は私にとって友人であり、母親であり、姉の様な、私だけが思ってるかもですが、家族なんです。それをまるで逆ハーレムしてる馬鹿女みたいに思われるのは心外です。男性に囲まれて浮かれる様な歳でもないですから。


 あ、そうそう! 歳でちょっと腹立つ事あるんですよ、ついでだから聞いてくださいよ。

 こっち来たのが26の頃だったんで、え~と、多分いま28位だと思うんですがね? そりゃ結婚しないのとか色々言われますよ、周りに。でも私、こっち来る前に散々な目に合ってるんですよ! 何にって? 決まってるでしょう、男ですよ! 何人かお付き合いしたんですが、悉く、こ~と~ご~と~く~! ろくでなし野郎ばっかでしたね!! え? なおさらこっちの男性はお勧め? だから、ですよ。だから私はこっちではそういう方を見つけようとは思いません。こっちの方々は、まあ例外もありますが、みなさん貞操観念がしっかりした方達じゃないですか。

 私の世界は結構ゆるいんですよ。ええ、そうです、だから、ですよ。こっち風に言えば、もう嫁げる身ではないです。それに私は異分子です。私が相手を見つけた事によって、本来の夫婦になるはずだった方の相手を奪ってしまうんじゃないかって、考えちゃうんですよね。


 考えすぎ? なんとでも、そういう性分なんですよ。


 ここだけの話し、そりゃあ、寂しくなる時もありますよ? だから、ねえ、一夜の~って感じで、あるじゃないですか? ああ、すみません。下世話な話しで。でもね、一夜でも満たされたいと思って色々行動したんですが、失敗するんですよ。あ、分かります? はい、迎えが必ず来るんです。勝手に来るんです、断っても来るんです、逃げても来るんです。これどうしたらいいですかね? え? 諦めろ? 嫌ですよ、たまには夢見たいですもん。え、なら正直に打ち明けろ? ええっ、ちょっと恥ずかしいどころじゃないですよ。欲求不満だから男漁って来るって言うんですよ、どんな拷問ですか。


 あ、なるほど。そうですよね、私のことまだ清い体だと思ってるかもしれないですよね。ありがとうございます、恥ずかしがらずにきちんと説明しようと思います。はい、はい、貴方も色々大変だと思うけど頑張って下さいね。ええ、帰り道がわかったら是非。では、また。


 よかった、これで彼もわかってくれただろう。 


 私は、断じて、逆ハーレムなんかじゃ、ねえ!!!


 逆ハーレム築いてたら欲求不満だなんて無縁だろうが!! 


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