第3話 恋の気持ち
彼は、バケツに張った水に落とした絵の具のように、自然とクラスへ溶け込んで行きました。夏の
しかし彼は、
私を抱き上げ窓から飛び降りたり、フリーフォールを繰り返すほどの跳躍を見せたりすることもない、普通の高校生なのです。私と初めて出会ったあの日に見た彼は全く別の人物かと思ってしまうほどです。
日が経つにつれてたちまち人気者になっていく彼が、皆には見せない
彼が私たちの日常に加わってから、かれこれ1週間ほど経ったでしょうか?
彼を中心として長らくクラスに停滞していた話題という台風は、次第にその勢力を弱め、
クラスには再び、なんの変化も面白みもない夏風が吹き、すごろくのように進む時間割を、
毎日がファーストクラス。私は朝登校すると、私専用の特等席に
彼はボールを使うスポーツが一番得意なこと。嫌いな食べ物はチョコレートと玉ねぎ。勉強はできるのになぜか唯一、作中の人物の心情を読み取る現代文はてんで駄目なこと。彼の様々な面を知る
私の学校では、期末試験の1週間前は全ての課外活動が強制中断され、その時間を勉学に
この彼の姿に一瞬でも顔がほころび、コンマ1秒でも可愛いと思ってしまった私は、どうしようもなく彼のことが好きでたまらなくなっていたのでしょう。
もちろんその時の私は、そんな気持ちに気付きながらも無理に知らんぷりをし、脳内エラーだと思い込むようなウブな子でしたけれど。そんな私を見透かしていたかのように彼は、担任に見つからないように私に近寄り、
「この人の気持ち、読み取るにはどうしたらいいの?」
彼は教科書に書かれている所定の箇所を指差しながら言いましたが、私は不覚にも、その言葉をそっくりそのまま彼に返したいと思ってしまいました。真剣な眼差しで私に答えを求める彼に正解を教えてしまったら、その目線がまた私から外れてしまいます。
「その前に書かれている情景を見てみるとわかるよ。その人の気持ちを知りたいのなら、周りを見るとわかりやすいの。」
今思い返すとこれは、半分自分に言い聞かせる意味もあったように思います。私の予想通り、ヒントをもらった彼はありがとうと少し
窓から差し込む日の光はずいぶん弱まり、東の空にはもう、うっすらと星が
帰路に立ち、歩きながらぼんやりと眺めていた夏の天井。するとそこに小さな宝石のような光が一瞬、か
「流れ星は、一瞬だから美しいと思う。一瞬だから人はきっと、それを見たくて空を見上げるんだ。」
彼はきっと後悔している私に、優しくこう伝えてくれることでしょう。せめて今起きたことを全て、新鮮なまま、暖かいまま、彼に伝えたい。明日の学校がこんなにも待ち遠しくなるなんて、私は考えたこともありませんでした。ベッドの中で明日の彼との会話をシミュレーションしてみるのも、これが何度目のことだったでしょうか。今まで一度も、想定通りに言えたことは何一つ無かったのに。
壁にかかった時計の針は一定のリズムで回り続け、やっとの事で一番高いところですれ違いました。このまま
私はちゃんと表現することが出来ていたのでしょうか? 今はもう確認する
他の誰でもない。彼の為だけに生まれてきた私の言葉が、彼を想う私の心の熱で溶けて無くなってしまうのは、あまりにも
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