40年の差は大きいですね、ええ本当に。
「んじゃ、さっきの話しの続きしよっか」
視界に映る景色は現代日本のまま。椅子から降りて二人で地べたに座り、飲み物や茶菓子を周りに置いてピクニックを楽しんでいる形のまま、まーくんが口を開く。
大丈夫。今の私なら落ち着いてまーくんの話しを受け止められる。……はず。ぶっちゃけまだ少し怖いけど、女は度胸って歌ってた人がいたし!
「……さっきも言ったけど俺だけ還るって選択肢は無いからね?」
そこは忘れない様に、と付け足してまーくんがチョコに手を伸ばした。
「まーくん、口閉じて食べなさい。行儀悪いし、ばっちー」
そう注意すればまーくんが噴いた。余計ばっちー。男性の口開けて咀嚼する率が高いのが謎だ。世の母ちゃん達は絶対に注意しているはずなのに。
「いっしー、マジお母さん。てか『ばっちー』聞いたの曾ばあちゃん以来なんだけど!」
ジェネレーションギャップってやつか!と続いたまーくんの発言に私は軽くヘコんだ。
そうか、忘れていたけどこれって方言なんだっけ? とりあえずまーくんは通じる地域みたいで助かった。それにしても曾ばあちゃんって……日本の核家族化は進みまくったみたいですね。……曾ばあちゃん、か……。
「……あ、うん。なんかごめん。だからって遠い目しないで戻って来て、いっしー!」
「ふふ、ふふふ、ジェネレーションギャップって楽しいね」
「本当にすみませんでした! お願いします、本題に入らせて下さい」
そう言って本当に土下座したまーくんの誠意に応えるべく、私からまーくんの触れたかった本題に話しを振ってみた。
「ログアウトを使うかどうか、でしょ?」
今までの会話で、話しの先を読むような事をしていなかった私からまさか触れられるとは思わなかったのかまーくんはキョトンとした表情を一瞬覗かせ、直ぐに真面目な顔に変わり、頷いた。
「うん。そこについていっしーの意見が欲しいんだ」
還れるかもしれない希望もあるが不安要素がてんこ盛りだと言ったまーくんに激しく同意した。
本当に還れるのか
ログアウト対象がまーくんだけなのか
「大まかに分けて、この二つ。還れるかって疑問に俺は否定的かな。実は認識チート使って色々やってみたけど駄目だったってのがある。認識能力じゃ次元うんなんには太刀打ち出来ないってのが俺の見解」
具体的にどんな事をしたのか好奇心でちょこっと聞いたら、扉を自宅の玄関と認識させたらしい。見た目は自宅玄関扉にする事は成功したけど開けた先は自宅ではなかったとの事。
それまんま、どこでもドアです。本当にありがt(略)
「やだ! そんな生ぬるい目で俺を見ないでっ、いっしー! 違うから! 他にもちゃんとやったから!! 空間接続とか次元の歪みとか色々宇宙っぽい感じにも頑張ってみたからね!」
「うん、学は頑張ったんだね。よくやったね、偉い偉い、まーくんは偉いよ」
「うああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
どうやら私の慰め方は間違ったようだ。リアルorzの体勢で頭を抱えてたまーくんが喚き出してしまった。どうやら22歳の成人男性のSAN値をごっそり抉ってしまった模様。
なんだその、ごめんね?
「まあ、その、……えー、なんだ、ログアウト帰還に対して期待は持たないから安心してね? んでもし成功するんだったらの危惧が、私がログアウト対象に成るか否か。でしょ?」
蹲っているまーくんの背中を摩りながら問いかければ、変わらず頭を抱えた姿勢で頭部を上下に動かしたまーくん。まだ先ほどの攻撃から立ち直れてないみたいだ。哀れ。
「ログアウトってよく理解出来てるか自信ないけど、どっかに入ってたのを出るって事でしょ? 実際やってみるとしたら出た先が何処か分からないってのは怖いね」
そもそもこの世界がログイン対象かなのかも定かじゃない。
「人生からのログアウトとかだったら恐ろしすぎる」
ふっと思った事を呟けば間髪いれづに返答が来る。
「ログアウトは使わない方針で議論は終了しようと思います」
おいーー! 決断早っ!! しかもorzの体勢から背筋がぴんと伸びた正座に変わってるし! いつの間に?! さすがまーくん、SAN値ごっそり削られてもそこは勇者!
「ついでに、凄い眠い。でも今後の事を話し合っておきたいーでもねみぃー助けてママン」
「ママ眠い~って幼い子供みたいに可愛く言ったらベッド貸してあげる」
「あれ不思議だな眠気なくなったよいっしー」
チッ! ノンブレスで言い切りやがった。そこまで嫌か。
でも私も今日は一杯あり過ぎて正直疲れた。寝る時間がはたしてあるのか心配すぎる、外はまだ暗いみたいだけど……。
「まーくん今何時?」
まーくんの高機能メニュー画面なら正確な時刻がわかるだろうと軽く聞いた私が馬鹿でした。
「いっしー、面倒くさいからって何でも俺に聞いてないで自分で見なさい。メッ!」
とりあえず反射的にまーくんの襟首を締め上げた私は悪くない。決して悪くない。
ちょ! なんで?! と心底訳が分からないまーくんの高機能ハイスペックメニュー画面が妬ましい。
「私のRPGゲーム使用のメニュー画面に時計機能があると?」
そう吐き捨てる自分を自分で許した。昭和生まれナメんなよ!
か細い声で2時31分ですと聞こえて、まーくんから手を離した。
……あれおかしいな、なんか目から汁が……。
高機能ハイスペックが私には眩しい、そんな深夜2時です。
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