私が私で彼が彼で

 うん、ティッシュは素晴らしい! 日本の文明のありがたみをヒシヒシと感じる。

 顔面グッジュグッジュな私に「ん」とだけ言ってポケットティッシュを差し出してくれた学君テライケメン! ぶっきらぼうな態度が私のツボを刺激しまくってくれた。

 もちろん受け取ったティッシュで遠慮の欠片もなく盛大に鼻をかんだ。一回ではなく三回位、丸めて鼻の中まで綺麗に掃除するのも忘れていません。


 「石田さん男前過ぎる! もはや女のおの字すら見当たんねぇ……だがそこがイイ!!」

 

 褒められた! ……褒められた……んだよね?

 汚物は消毒だー! なんてノリノリに使用済みティッシュ内ポケに入れてるけど……片づけてるだけなんだよね?


 「ああ、うん、勝手に学君を身内認定しちゃったから遠慮なんかなしの方向でよろしく」

 「されちゃった?! 俺勝手にファミリーにされちゃった!? ふざけんなよ超嬉しい!」


 さっきまでの号泣が嘘のように二人でふざけ合う、なんだか気の合う弟が出来たみたいで嬉しい。お互いに恋愛感情は発生しない、私は年下に一切食指が動かないし学君は既婚者な所でアウトだと言っていた。多分こいつ処女厨だろ。代わりという訳じゃないが家族愛みたいなものを私は彼に感じる。

 

 「これからよろしくね、まーくん」

 「うおおおおおっなにこの幼いピュアだった頃を強制的に思い出させるあだ名は!この年でまーくん呼ばれるとは思わなんだ!!」

 「ふふふふ、私の事はやっちゃんと呼んでもいいよ?」


 小学校時代のトラウマなあだ名だろうとこの年では素敵なネタとして受け止められる私の余裕をみせてやろう。くくくく。


 「やっべ、超呼びてえ! なにそのネタ臭しかしない呼称!! でも呼べねぇ! 呼べねぇのが悔しいいいいいいいいい」


 なんで? と思いっきり顔に出たのかまーくんが説明を開始した。


 曰く、リスクが付きまとうらしい。名前呼びが癖になってうっかり誰かに聞かれたら即アウト。あだ名だろうがその人物を表す言葉で魔術をかけられるみたい……もはや呪いです本当にありがt(ry)


 「んなで俺はいっしーと呼ぶ、答えは聞いてない」

 「ひねりな「答えは聞いてない!!」」

 

 ムキになるまーくんにこちらではイシーダと呼ばれてるとカミングアウトすると、まーくんはマーナブと呼ばれてると逆告白されたので爆笑した。微塵の遠慮もなく涙流しながら笑った。腹痛いっマーナブはないだろう、マーナブ!!


 マーナブマーナブ言いながらやっと表情筋が落ち着いて、非常に重要な事に気が付いた。


 「どうしよう!! 爆笑しちゃったけど周りに一人で馬鹿笑いする変なやつとか思われる!!」

 「……今更かよ」


 この世界の建築物(木製)の防音性能は紙である。

 本当に今更だ。散々まーくんも叫んだり大声出していたし、聞かれたらヤバすぎる!


 「はいはい、そんな絶望したっ! 的な顔しないでもへーきだって。安心安全チートでこの部屋入って速攻でプライバシー侵害イクナイ結界張ってある」

 「そのネーミンg「声はもちろん振動まで完全シャットアウト! 扉の鍵を掛け忘れていても自動で封鎖されるのでまあ安心! 地震雷火事親父いかなる邪魔もバッチリ防ぎます!!」」


 本人にも分かってるみたいです。私に最後まで言わせない位ちょっとアレかなって思うなら名前変えればいいのに。


 「まあそんな訳だ。安心しろ、いっしー」

 「トテモスバラシイデスネ」

 「……真面目な話しになるけど、これからについて話し合おう」


 話しを逸らしたな、まーくん。私の完璧な棒読みを完全スルーするとは!

 心なしか真剣みを帯びたまーくんの目に、私も仕方なく真面目な顔に切り替え、言葉を待つため口を閉ざす。


 まーくんが軽く息を吸って口を開く、そのタイミングで木を叩く音が部屋の静寂を破った。


 「おい、イシーダ起きてるか? お前に《お客さん》だとよ」


 ノックの後に続いたバイスの声で、今まで暖かく楽しい空間が霧散し、代わりに空気が張りつめる。


 でもバイスに返した私の返事には緊張や怯えなんか少しも入ってなかった。



 私は一人じゃ、ない。










──────

 勇者マーナブ 自称身長170㎝ 異世界において、いかなることがあろうと彼は身長を測らす事はなかったという。


 実態は会社の健康診断で169.8という記載にいつも涙しているピュアな青年である。



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