感動の出会いとか期待してない
目が、合った。
運転免許証の眼鏡着用をギリギリで免れている視力しか持ち合わせていない私が。
彼との距離は優に10M以上は離れているのに、今も合わさったままの視線が現実と知らせている。彼だと、一目で分かった。先頭に立ち、仲間を従えているからじゃなく、髪と目の色が同じだからでもない。
本能が、自分と同じ人種であると一瞬で判別した感覚だった。
彼は普通だ。雰囲気も、見た目も、なんら私の見知っている日本人と変わらない。
日本で人混みの多い場所ですれ違っても目敏く見つける特徴は外見には感じられない。
いまだに見詰め合ったまま、彼が笑った。その笑顔はネット越しに、たまに透けて見えた気がした顔そのものだった。気付くと私も笑っていた。ここに連れられてから、初めて自然と出た笑みで彼に応える。
『対象人物を捕捉、記録しました。以降、捕捉者は対象者の現在位置等の情報が閲覧可能になります。』
ポーンと注意を惹く音がいきなり頭の上で鳴った。音に気付くと同時に、ド○モの自動案内のお姉さんみたいに明瞭な声が頭に直接話しかけてくるが……、ちょっと待って。
今、すごい気に掛かる言葉を言ってませんでしたか?骨伝導携帯ってこんな感じなのかな、とかのほほんとした考えが一気に霧散した。
『コミュニケーション回路構築完了。接続します』
だから待って!! なんで事後報告なのお姉さん!! 身体は驚きで硬直してるに係わらず、頭の中に伝わってくる一方的な声に精一杯の文句を心中で上げていると、別の声が響いた。
『認識した。いい貧乳である。』
成人した男性の声で伝わった言葉で、言わずもがな誰だか悟る。
こちらこそが言いたい、その台詞で認識した、と。
『おい、全部だだ漏れでこっちに聞こえてるから。伝えたいって思ってから考えてみて』
よーし、伝えたいって思ってから・・・
『だからそれも聞こえてるって』
どうすりゃいいんだ!! おばちゃんには難しいんだよコノヤロー!!
多分これもきっと伝わったはず、といつの間にか顔がきちんと分かる位まで近くに来ていた彼に意識を向ければ、誰かが勇者の真横についてピンポイントに私の視界を邪魔する。
勇者一行の兵士だ。
『クソッ、いきなりなんだよコイツ。こっちは頑張って横目だけで貧乳鑑賞に勤しんでたってのに!』
オイ、聞こえてるぞ。といつもなら突っ込みを入れる所なのに、勇者を隠す様に私の視線の間に入った兵士から、私は目が離せないでいる。
『どうした? オーイ! ……何かあったんですか? 石田さん』
深刻な声音に変わり、口調まで変化した勇者の問いかけに、固まっていた意識がやっと戻る。でも頭に浮かぶ言葉は一つだけ……。
レッス
それしか出てこない。思うと同時に、口からも言葉として出していた。
なぜ、彼が一緒なんだ。そんな疑問だけが今の私を支配した。
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