完徹の訳
もうね、三十路近い女には貫徹とか無理。若い頃はハイになって騒いで爆睡すればよかったんだけどこの歳になると気分はローな感じ。車の運転で言えば5速発進しちゃっていつまでも半クラのままでガタガタする感じ。ああすまん、今はオートマ限定が主流らしいね、すまんかったおばちゃんが悪かった。元気の前借したいから誰か栄養ドリンクをくれ!!
恩人を説き伏せた後、直ぐに自室に戻ってお出掛けの準備を完了させ、焦る心をそのままに乱雑にメニュー画面を開いた。MPが回復してるのを確認して、Gにダイブした。
感想をいえば、チョコが非常に食べたい。特に一口チョコ。白と黒の二層のやつ。
まず、時間の流れが速いはずの私の世界。なのにこっちと時間経過が今は変わらない。
その証拠にスレがまだ残っていたのだ。正確にいえばpart3になっていたけど。私が抜けてからの流れを読み返すのに没頭した。通常だったらマジキチ扱いの書込み、でも今の私には惹かれて止まない。
『なんか異世界っぽい所に召喚されたんだけど、おまいら助けて』
その書込みの後しばらく沈黙していたが、数時間したら怒涛の流れが開始した。
読み進めれば進むほど私がレッスから聞いた勇者様と当てはまる。そしてこの召喚された彼は何度も、何度も、私を呼んでいた。
『おい!>>1!!!スレ見てくれよ!!!!1!!お前ここにいんだろ?!!本当はいるんだよな???!いるっていってくれ!!!!』
悲痛な叫びとしかいえない彼の書込みは続いていた。私とは違う世界という可能性を否定したくて、したくて。私は知らずに泣いていた。深夜テンションパネェとか強がって目元を拭う。とても不純な涙だ、彼は絶望や孤独、不安に陥っているのに私は、嬉しくて、一人じゃないと安堵して、泣いたのだ。仲間が来た、と。日本から、常駐スレから、同じ境遇の。
『おい勇者様wwwよくも聖統括の屑野郎に自分の前に女が呼び出されていないかってききやがったな。あの屑、否って言ったろ! 喜べ、おかげで私は消される事になったぞ』
軽い冗談みたいに書込む。こうする事で私は「いつも」を取り戻せる。内容はヘビーだけど。
>>1 キ・キ・キ・キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!
>>勇者!!勇者ああああああああああ!!!!起きろ!起きるんだ勇者!!!!!
勇者!!!何してんだ!てか>>1!!どうしたんだ!kwsk!kwsk-----!
おお! まさかキタ━(゜∀゜)━! が自分にカキコされる日が来るとは思っていなかった。地味に嬉しい、テンション上がる。kwskの文字に窓に目を向ける。空は少し薄くなってきてる、朝は近い。
『ごめん。夜が明け次第、逃亡イベント開始するからもうあんま時間ない。落ち着いたらkwskに答えるよ。あと勇者様ww私の事を口にも態度にも出すなwww私に死亡フラグ立ちまくるからwww あ、質問に答えよう、同じ世界にようこそ、勇者様』
書込み完了と同時にもう流れは見ないで、手を振った。ピッと音を聞いて、ゆっくりと長く息を吐きだした。さあ、始めようか。
小さいノックの音の後にレッスの声が私を呼んだ。荷物を背負って扉に手をかけ、開けた。
明けない夜はない。
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