第7話

『お、お母さん・・・・?』健一は白い柵を回り込んで、板張りの入り口から中に入り、女性の顔を見つめていった。

俺も後について、中に入り、探偵免許とバッジを示し、自らの目的を明らかにした。

『あの絵葉書ね・・・・まさかあれを取ってあるなんて思ってもいませんでした』

彼女はそう言って、俺と健一を、

『こちらへどうぞ』と、建物の中に案内した。

中は今どき珍しい板張りになっていて、さながら昭和30年代の風景の中に、そのままタイムスリップしたかのような光景だった。

彼女はその中の、

『園長室』という札の出た部屋に俺と健一を案内した。

俺はロシアには一度も行ったことはないが、そこは昔見たロシア(ソヴィエト映画と言った方がいいか?)に出てくるような、やはり板張りの部屋だった。

彼女は、

『ここに坐って、ちょっと待ってらしてね』といい、部屋の片隅にある低い家具の上に置いてあったサモワール(ロシアで良く使われる御茶沸かし)を使ってロシアンティーを淹れ、銀製の盆の上に茶器と、凝った図柄の皿と、ポットに入ったジャムを載せて戻ってくると、

『お茶がお嫌いじゃなきゃいいんですけど?』

といい、俺たちの前に並べてくれた。

暫くの間、三人とも何も言わなかった。

健一が口を切ろうとした時、俺は彼から預かっていたあのヒスイの勾玉を前に置いた。

彼女は一口お茶を飲み、それから健一の方を見て、

『大きくなったわね・・・・幾つ?』と訊ねた。

『15です』

『そう・・・・』それからまた一口お茶を飲んだ。

『この中に何が入っていたか、もうご存知ね?』

『ええ・・・・』

『ロシア語は分かる?』

『私は分かりませんが・・・・』俺はちらりと隣に座った健一を見た。

『僕は分かります。随分勉強しましたから』

『そう、偉いのね』

彼女はそう言ってから、俺の方を見て、それから訥々とした口調で話し始めた。

オリガ・ゴンチャロフスキーの曽祖父、イワン・ゴンチャロフスキーは、帝政時代ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ二世に仕えていた親衛隊の士官の一人だった。

彼は、あの十月の革命前に、ニコライに呼び出され、一通の書類を渡された。

それはニコライ自らが自筆で記したもので、ロマノフ朝に代々伝わる秘宝の中でももっとも貴重とされるものの一つ『黒鷲の涙』という名前のダイヤのありかを示すものだった。

他の宝物はあらかたスイスの銀行に保管されているのは分かっているのだが、これだけは世界中どこを探しても、誰にもその在り場所は分からなかった。

皇帝はシベリアで銃殺される間際、ボルシェビキから何度もそれについて尋問をされたものの、ついには口を割らなかったという。











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