第5話

 俺は店主に礼を言って外に出た。タクシーを止める。

いなテレビでは 何故かタクシー さっと来る)

 なんておかしな川柳があったが、ここ新潟では、東京なんかよりせわしなくない。タクシーもすんなり泊ってくれた。

 俺は健一を先に押し込み、運転手に、

『新潟県立図書館へ』と告げた。

『何故?』彼は不安そうな表情で訊ねたが、俺は何も答えなかった。

『出来るだけ頭を低くしろ』俺はそう言って、そっと後ろに目をやった。

 さっきのセダンが、こちらのスピードに合わせて後を追ってくる。

 それにしても何から何まで記号づくめだ。

 安物のミステリー小説にありがちのパターンだ。

 しかし、俺はそんなこと気にしちゃいない。

仮にも街中だ。

 いきなり撃ち合いをしてくるほど目立った真似をするとは思えない。それでなくともめだっているんだからな。

 兎に角俺たちは図書館についた。

 運転手に頼んで、敢えて回り道をして貰った。かなり連中を混乱させられたはずだ。運のいいことに、ここには俺の昔の馴染み・・・・まあ、詳しく言うのは省くが、前にある依頼で新潟を訪れた時、ちょっとしたトラブルがあってね。ここの司書をやっていた男と偶然知り合った。

その彼が現在館長をしているのだ。

図書館にも貴重な資料や、昔の新聞などのバックナンバーが所蔵されているのは周知の事実であるが、それらも『デジタル化』とやらで、殆どがマイクロフィルムに収蔵されている。

それを見るのにはマイクロフィルムリーダーが必要なのだが、ことハイテク(マイクロフィルムなんかハイテクじゃないって?詰まらん突っ込みは止してくれ)に、関しては、その辺の小学生でも知ってることさえチンプンカンプンの俺だ。

最近になって、ようやっとスマートフォンの使い方を覚えたくらいだからな。

ま、それはともかく、とにかくヒスイの勾玉から出てきた『アレ』がなんであるかくらいはすぐに分かった。

そこで図書館だ。

久しぶりにあった『彼』は、館長らしく貫禄もついて、昔のようなぎすぎすしたところがすっかりなくなっていた。

予め電話しておいたこともあり、また昔馴染みと言うこともあってか、本来ならば外部からの持ち込みの資料は、小うるさい規則があってリーダーの使用は無理なのだが、彼は俺の頼みを快く引き受けてくれた。

金属製の筒を開けると、果せるかな、中からは数枚のフィルムが出てきた。

俺はそれをリーダーにかけ、ディスプレイを凝視した。

何かの書類が大写しになっている。

かなり古いもののようだすこししかも日本語ではない。

ロシア語で良く使われる『キリル文字』というやつである。

だが、残念ながら俺は英語の方は何とかいけるが、東欧系の文字はどうも苦手である。

すると、いつの間にか俺の隣に来ていた健一が、

『ちょっと変わってください』

と、画面を食い入るように読んでいる。

『ロシア語、分かるのか?』

『ええ、これでも血筋を引いてますし、少しばかりは・・・・』










 

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