第4話
バスに乗っている間、俺は気が気じゃなく、殆ど一睡もできなかった。
こうなってくると、30人近くの乗客全て、いや運転手まで『敵さん』に思えてくる。
何しろ向こう側はどこの何物かも分からない。
それに事務所に押し掛けてきたあの二人組だけだとは限らないからな。
食事もPAに着く度に、健一を連れて外で済ませた。用を足す時もべったりだ。
一瞬たりとも気が抜けない。
結局、新潟に着くまで、俺は殆ど一睡もしなかった。
しかし、眠らないなんてさほど苦痛ではない。
レンジャー訓練では、まるまる三昼夜寝なかったなんて事もあったからな。
それに比べれば今なんか天国みたいなもんだ。
しかし、新潟に着いてみたものの、どこから手をつけていいか、さっぱり分からない。
とりあえず俺はヒスイを扱っている新潟市内の貴金属店を当たってみることにした。
最初の五軒ほどは、それこそ『けんもほろろ』という扱いだったが、六軒目でやっとぶち当たった。
そこはあんまり有名な店ではなかったが、結構老舗で、出てきた主人は一目見て、『ああ、これはウチで売ったやつだよ』と言った。
『といっても、俺の祖父さんの代だから、少なくとも五十年は前になると思うけど』
彼はそう断ってから、一旦奥に引っ込み、それから台帳のようなものを取り出してきて、記憶を辿るように頁を繰った。
『じいさん、もう五年前に死んじまったけど・・・・その客のことはよく覚えたよ・・・・・そうそう、この人。イワン・ゴンチャロフスキー・・・・』
『それは、祖父の名前です!』
突然健一が声をあげた。
店主は驚いたように、俺と彼の顔を見比べていたが、俺が促すと、
『じいさんが俺に話してくれたところによるとね・・・・その人、白系ロシア人らしいんだが』
まだほんの生まれて間もない頃、父親と一緒に船で新潟にやってきたという。その後北海道の小樽に移って、そこでロシア料理のレストランを始めて成功した。大人になるまで忘れていたが、やはり一番最初に日本の土を踏んだ場所だったから、ぜひもう一度来てみたかったと語り、
(何か思い出になるものがないかと探している)
そういって、店主の祖父が勧めた、このブルーのヒスイを買っていったのだという。
『値段自体はそれほど高いもんじゃなかった。形もありふれた勾玉だろう?確か・・・・そう、当時の値段で2万5千円だ』
店主がいじりまわしていると、勾玉のちょうど頭に当たる部分が、ポロリと外れてしまった。
折れた、とか、割れた、という感じではなかった。
今まで張り付いていたものが何かの拍子に取れた。そんな感じだった。
店主はすんませんと謝り、直ぐに修理してあげるから、といったが、その時俺は、中から何か入っているのを見つけた。
『ちょっと待ってくれ』俺はそういい、彼から勾玉を受け取った。そこに入っていたのは、小さな金属の筒状のものだった。
『なんですか?それ?』
『さあ、分からん・・・・』俺はそれをウィンドーから差し込む光に透かしてみようと手を挙げた。
その時、表の通りに一台の黒いセダンが駐まっているのがみえ、中には間違いなくこの間の二人が乗っていた。
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