第2話

『それにしても、どうやって北海道から来たんだね?』

『利用して寝台特急で来ました。僕、列車が好きだって、話したでしょう?』

名目は連休を利用して東京の鉄道博物館を見学に行く。家にもそう断ってきたという。

『北の大地にだって私立探偵はいるぜ?なんでわざわざ東京まで出てきて・・・・』

『父の顧問弁護士に相談したんです。そうしたらその人の弁護士仲間が、「東京の乾って探偵なら信頼がおける」って紹介してくれて』


俺の知っている名前だった。確かに、昔ある厄介な事件の解決を、北海道の弁護士に頼まれて出向いたことがあった。

信頼してくれるのは結構だが、要は面倒なんで尻を持ち込んできたんだろう・・・・いささかひねくれ者の俺はそう考えてしまったが、しかし請け負ったからにはなんとかせねばならない。

『お母さんについて、君は何も知らないと言ったが、本当に何も知らないのかね?』

彼は少し考え、それからぽつりぽつりと答え始めた。

遠い昔、母が問わず語りに話してくれた記憶・・・・百年前の十月に起こった革命の後、白軍の軍人だった彼の母方の曽祖父がレーニンのボルシェビキに追われて家族と共に日本に逃げてきたこと。

しかし生粋のスラヴ系というわけではなく、中央アジアの騎馬民族の血筋であること。

北海道に来てから、母の一族はずっとロシア料理のレストランを経営していたこと。

曽祖父は元より祖父と実父は革命のために国籍を失ってしまったので無国籍のままだったが、母は結婚する時に日本国籍を取得して帰化していたことなどを教えてくれた。

『あとは・・・・これです』

 健一は首からペンダントを外し、掌に載せてこちらに見せた。

勾玉の格好をした、見事なブルーをした石だった。

『ヒスイだな』俺は言った。

『ヒスイって、新潟県の糸魚川で取れるんでしょう?今のところ一番の手掛かりはそれと、あと・・・・』彼は鞄の中からもう一つ何かを取り出した。

『それから、これも父の遺品から出てきたんです。』

絵葉書だった。

父に対する当たり障りのない文章と、柏崎の消印が捺してある。

『今のところ、手掛かりっていえばこの二つだけなんです。』

消印の日付は今から7~8年前のものだ。あてになるかどうか分からないが、何もないよりはましだ。

 彼の博学さと記憶力には関心させられたが、ほんの僅かな糸を手繰り寄せるようなものでしかない。

しかし何もないよりはましだ。

とりあえずここから探ってみるしかない。

俺は腰を上げた。

『俺は情報を聞いて動くとして、君はどうするんだね?連休はあと3日しかないだろう?』

『待っていてもしょうがないから、学校には欠席届を出しました』

実にきっぱりとした口調だった。

『出しましたから・・・・ってことはつまり・・・・』

唖然としたが、俺には断る権利はなかった。

たとえ15歳の少年であっても、相手は一週間、俺を42万円で雇った依頼人なのだから。











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