12.最後の日

最後の日

 星があんまりたくさん輝いているものだから、寒さも忘れて眺めていた。

 渦巻く風と木々のざわめき。鳥の鳴き声と獣の遠吠え。それに、テントから漏れ聞こえるフィンランドのクラシック。それらよりも遠い場所の光景に思いをせてみる。街では今頃カウントダウンで盛り上がってるんだろうな。

 狭いテントに引っ込んだ。吊られたランタンが光を揺らめかせている。寝転んでその光を眺めていると、なんだか眠くなってしまう。曲はクライマックスに差しかかっていた。

 冷たく澄んだ、大晦日の夜。山奥の県道沿い、こんな日には誰も通らないような道の脇の茂みを深く深くまでかき分けた先の小さな草原くさはらで、ぼくは今年最後の夜を過ごしている。

 こんなことをするのに意味なんてない。ただなんとなく、一年の最後を迎えるには特別な形でありたいと思い立ったからだ。

 けれど、こうして夜が流れていく中に特別なことなんてひとつも存在しないのかもしれない。ここにいると、そんな思いが去来した。

 あるいは、すべてが奇跡なのだ。

 息をすること、食べること、眠り、遊び、傷つき、苦しみ、死んでいくこと。すべてがこの世界で変わらず繰り返されて、明日が今日になり、今日が昨日になり、過ぎ去っていく。

 人はそれに意味を見出し、価値を描いて尊びたがる。そんなことをするのはきっと人が唯一だ。それこそが人という生き物なのだ。

 気づけばクラシックの演奏は終わり、CDプレーヤーは黙りこくっている。生命の息吹に満ち溢れたこの場所に、静寂はなかった。

 いまのぼくは人間ではなく、この空間を生み出す生命の一欠片として存在しよう。今日が終わることに、今年が終わることに、ここでは意味なんてないのだから。

 ランタンの灯を消して、ぼくは眠りについた。

 こんな過ごし方は、特別かもしれないけれど。

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