11.蜘蛛の糸

蜘蛛の糸

 見飽きることにも飽きた白い天井

 否応なしに注がれる点滴と流動食

 一秒を数えるうちに過ぎ去る今日

 生きながらにして死んでいるぼく


 スローモーションで迫るトラック

 気づいた時にはぼくの身体は空中

 アスファルトに全身を打ちつける

 生か死かの狭間で綱渡りするぼく


 目を覚ましたぼくは真っ白を見る

 なにがあったと思っても声も出ず

 焦燥極まる母は延命を訴えている

 言われるがまま、生かされるぼく


 過ぎ去っていくぼくが不在の季節

 色もなく終わる昨日、今日、明日

 穴の中にぼくだけが留まっている

 死にたさすら言葉にできないぼく


 語りかける声達が遠ざかっていく

 ふいに一秒が縺れて、ぼくは悟る

 体から解放されるぼくの魂が輝く

 永遠と一瞬に等しい時の末、死ぬ


 ぼくの目前に細い糸が垂れている

 今にも切れそうな蜘蛛の糸がある

 そうか、ぼくはようやく理解する

 いま、この世界が正真正銘の地獄

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