9.三題ショート
三題ショート六本立て
「影」「怒る」「缶」
路上で子供らが影踏み遊びをしていた。危ねえな、といらだって飲み干したコーラの空き缶を握りつぶして捨てた。まったく、近頃の親の教育には怒りを覚える。
そんな子供らのひとりが、やおら駆け寄って俺に言った。
「空き缶はゴミ箱に捨てなきゃダメだよ」
「波」「一日」「下着」
「こないだ下着姿で着衣水泳したんだよ」
「そんなもん着衣水泳とは言わねえよ。布面積水着とどっこいだろ」
「そしたら全部波にさらわれちゃってさ、一日下着なしで過ごす羽目になったよ」
「誰かこの変態を通報しろ」
「津波」「嫁」「はたき」
「ウチのカミさんマジで鬼嫁でさ。先週の飲み会のあと、終電で帰ったらあいつブチギレてて家に入れてもらえなかったんだよな。マジでこえーの」
「それくらい大したことねえって。うちの嫁なんてこないだの地震の時、はたき1本で津波食い止めてたもん」
「お前の嫁さんマジで鬼神かなんかなの?」
「果物」「年の暮れ」「南瓜」
「今年のお中元に果物と称してスイカを送りつけられたので、お歳暮には果物と称して南瓜を送りつけてやるつもりです」
「生きづらそうな意地の張りかたしてんなあ」
「猫」「占い」「シーツ」
「猫占いって知ってる?」
「なにそれ?」
「飼い猫の爪とぎでボロボロにされた壁紙やシーツの裂け方で吉凶を占うの」
「その時点で凶だよ」
「水草」「汗」「自転車」
子供の頃、長い坂を自転車で疾走して遊んでいたら、坂の終わりの正面にある池まで突っ込んでしまったことがある。全身に滴る生臭い水に汗を溶かしながら、みじめな気持ちで水草の絡まった自転車を引き揚げたあの夏の日も今ではいい思い出だ。
大人になって、人生の下り坂を転げ落ちた末に泥沼に溺れた。こんなみじめな今も、いつかいい思い出になってくれるか?
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