6.カエルの子
カエルの子
カエルの子はカエルと言うが、今はヒトの子がロボットの時代だ。
ぼくはロボットと結婚した。
ロボットの人権が認められるようになってから20年あまり。西暦21XX年はそういう時代だ。
ぼくと結婚したロボットはごくありふれた女性型で、出会ったのは高校でのことだった。彼女はロボットであるという理由で周囲には奇異の目で見られていたけれど、それ以前にそう見られて当然の変わり者で、無類のヤドクガエルフリークだった。
ヤドクガエルはその名の通り毒をもつカエルの一種で、赤やら青やら黄色やら、やたらとカラフルなのが特徴だ。アメリカ大陸に生息し、先住民はこのカエルから抽出した毒を矢に塗って狩猟に用いたという。
毒があるからヒトが素手で持つのは危険なのだけど、ロボットには関係ない。彼女は平気で素手で触り、間近に眺めて人口表情筋をほころばせた。ぼくにはヤドクガエルの魅力は理解しがたくても、それを愛おしげに見つめる彼女の瞳は好きだった。
結婚を決めたのは大学3年の夏。ぼくと彼女とで中古車に乗って、将来の悩みや目の前の不安から逃げ出すみたいにドライブした末に、地名の読めない田舎の原っぱにたどり着いた。もうどこにも行きたくないと道中のコンビニで買った缶ビールやチューハイをこれでもかと呷って、酔えない彼女と酩酊のぼく。
都会じゃ見えない星が綺麗だった。月も綺麗だった。それを言葉にしたかは定かじゃない。目を覚ましたらぼくは朝の首都高を走る中古車の助手席にいた。運転席の彼女は「私たち、結婚しようよ」と言った。
ヒトとロボットとの間には子どもを作ることができないから、子どもがほしい場合は養子をもらうことになる。
ぼくと彼女とがもらった養子はありふれた男性型で、ぼくよりも長身だった。現代のロボットは人間と同じように成長していくブレインを搭載しているけれど、ボディに関してははじめから完成されている。いつかは成長するボディが現実になるかもしれないけれど。
親になるというのは不思議なもので、ボディに変化がなくてもブレインの成長がもたらした変化をほんのちょっとの仕草の違いや週間の変化から察することができてしまう。こんなにカンが鋭いなら推理小説の探偵役も勤まるかもしれないな、なんて思うけれど、このカンは息子にしか働かない。
息子は今日、家に帰ってくるなり両手に覆い隠したものをぼくに見せびらかして、人口表情筋をほころばせて言った。
「見て、ヤドクガエルだよ。すごくかわいい!」
今はヒトの子がロボットの時代だが、カエルの子はカエルだ。
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