第27話
凸してきた車を殴り倒したら警備員の詰所に連行された件。
解せぬ。
「いや、お嬢ちゃん。アレ人身事故とかレベルじゃなくテロかって思うぐらいの音したからね? つか何で無傷なの?」
《げせぬ》
「いやそれはもういいから。というか普通に話してくれると嬉しい――あ、名刺? これはどうも」
受け取った名刺を手にPCを操作する中年警備員を横目に、先程の"事故現場"を眺める。
平日に日中故に人気が少なかった駅前も、今では警察がわんさか集まり現場検証中だ。立入禁止のテープが張り巡らされ、俺が吹っ飛ばした
「君の年で特警かあ……。ああ、声が出ないから筆談なのね。登録されているようだから"保護"はしないけど、一応規則だから確認はさせてもらうよ?」
「……(こく)」
頷きを一つ入れると警備員は警察を一人招き入れ、さくっと事情聴取が行われる。といっても簡単な内容ばかりで、こちらは筆談の必要もないぐらいだ。前もって監視カメラなどでの当時の状況は確認していただろうから、本当に一応程度なのだろう。
ものの数分で聴取が終わると警察はあっさり退席し、警備員も若手にあれこれ指示を出して"確認"の為、名刺を片手に別室へ去って行った。
あの名刺にはICチップが埋め込まれており、これで身分が証明できるというなんとも便利な代物だったりする。"特警"――特殊警護職の人員は国によって管理……と言えば少々固いが、その身分を保証されているのだ。
専用のホームページ、そこのデータベースには警護職に就く人間のプロフィールが溜めこまれており、ICチップを使うことでその人間が本当に特警に所属しているかが判別できるのである。掲載されているのは顔写真と身長体重に指紋、俺の様な声が出ない等の特殊な事情ぐらいではあるものの、今みたいな状況では非常に有用だ。
("前"にも似たようなシステムがあったが、大半がアウトローだったから意味なしてなかったんだよなあ)
『お主のいう"前"のところだと、警護職じゃのうて単に傭兵じゃろうに』
(ま、そうなんだがな。たしか国がやたら好き勝手する連中の人員管理をしようと、コレの傭兵バージョンがあったんだよ。つっても信用の欠片もない情報しか載ってないから、速攻で廃れたけどな)
『税金の無駄使いじゃったか……』
そんなガワだけで改竄し放題な情報より、やはり実績が第一、実力主義の世界だったのだ。無法者だろうが何だろうが依頼をこなせる腕があればそれが信用に繋がるという情勢である。
こっちではかなり違うからちょい混乱するが、便利であるのには違いない。何より驚きなのが、
(この特警って一応公務員扱いなんだな)
『普通の公務員と違って自分で仕事を探さねばならぬから、どちらかと言えば単なる国家資格のような感じはするがの』
(ガキの俺でもなれるぐらいだから、かなり特殊な立ち位置ではあるんだろうさ)
単になるだけなら簡単だが、そこから火器の携帯許可だの所謂殺しのライセンスだのとなってくると結構な試験だとか訓練が必要になってくるらしい。俺はなりたてなので、刀剣所持までが限度である。
前にショットガンぶっぱしてた? ハハハ、あれはノーカンだ、ノーカン。どうせ相手も未登録のイリーガルな連中だったから構わんだろうさっ!
"前"は戦闘前提の仕事ばっかだったから火器の訓練は必須だったが、こちらではあくまで警護職なので防衛向きの技能の取得が推奨されていた。方向性としては完全に真逆だな。
しかし平和な世界だと思っていたら特警のような制度もあるし、過去になんかデカい事件でもあったのかね? うーむ、"前"じゃ傭兵だのは当たり前だったから、あまり気にしなかったな。その辺り調査不足だったか。
『しかし、簡単な登録だけで刀剣が持ち運べるようになるとは、結構物騒じゃの?』
(まあそれでやらかせば未成年だろうと罪状マシマシで豚箱逝き、最悪さくっと極刑になるらしいし、それでバランスとってんだろ)
『手続きと登録の維持には少なくない金と、既に登録して実績のある者からの推薦も必要ときたか。お主の場合、椿のお陰じゃな』
(初仕事の時にはなーんも説明受けてなかったが、ありゃ多分子供だからって端折られたな。ちゃんと仕事ができるか様子見ってのもあったんだろうけど)
ちなみに隆仁は椿の支援のために運転や無線などの技術を中心に会得しており、火器は現在訓練中なのだとか。そういや
(あの二人もいいコンビなのは確かなんだが、さらっと無自覚にいちゃつくのはどーにかならんのか。昨日も金の件でいつまでも……)
『金というと生々しいが、要は隆仁の登録料を返すか返さないか、という話じゃったな。第三者からすればどっちでもいいじゃろうとし言いようがないが』
(隆仁は巻き込まれただけで払ったのも父だから返済不要という椿と、借りたもんは返すというスタンスの隆仁。いやほんといっそ籍入れたら話早いんじゃねーか?)
椿は巻き込んだ負い目と、父が亡くなってから支えられてる自覚があり、隆仁は仕事の相棒として対等になりたいので貸し借りをなくしたいという。どっちも心情的な話で契約書なんぞはなく、後はそれこそ本人たち次第だが……どうせ期限は卒業までだ。それまでにはどんな形であれ、決着するだろう。
(椿の状況も、俺が入ったことで変わったしな。前は隆仁がいなけりゃ椿も仕事を止めるだろうと考えていたが……)
『今はお主がおるから続けるじゃろうな。おかげで隆仁が椿の進退を左右するという事態はなくなったからのう』
(こっちとしてはあの狂気入った幼馴染とか義妹が本格的に絡む前にカタつけてくれとしか言いようがねえな!)
もし修羅場になったら全力で逃げさせてもらおう。
○○からは逃げられないというフレーズが思い浮かんだが、きっと気のせいだ。うむ。
決意を新たに貰ったココアを飲んで一息、時計を見ると結構な時間が経っていた。騒がしかった周囲も落ち着いてはきているものの、しかし最初俺の対応を行っていた責任者らしき中年警備員は未だ戻ってこない。
『確認、とは言っておったが、随分と時間がかかっておるな?』
(ふーむ。俺の見た目がガキで、しかも特警になりたてだから確認はされるだろうは考えていたが……)
『身分証明ならあの名刺だけで済むのではなかったのかのう?』
(偽造の可能性もあるし、ちょい派手にやったからな。実際に問い合わせたり、名刺に付いている指紋を照合したりして判別してんだろ)
なら派手にやらなければ良かったのでは……というツッコミをスルーし、改めて周囲の状況を探る。
現場の検証は一段落したのか、レッカーが来て大破したワゴンが回収されていくところだった。あれが完了すれば警察は本格的に撤収するだろう、既に準備を始めているようだ。警備員も人員を増やして警戒を解いてはいないものの、しかしどこかほっとしたような雰囲気が流れていた。
(誰も犯人について話題にしない件について)
『そりゃ少々調べればすぐに分かるからのー……』
(こりゃ時間掛かってんのはその辺りだろうなあ。警察にも影響力があるって話だったから、妙な口出しして来てるのだろうさ)
あれだけ痛い目を見ただろうにも関わらず、もう熱さは喉元過ぎたということだろう。やはりあの
ったく、今更学校にも行かなきゃならねえってのに、既に厄介事が山盛りってどういうことだよチクショウ!
『む、そうえいば、先程何やら連中関係で気付いたことがありそうな雰囲気じゃったが一体――』
駄刀が何かを言いかけたところで、詰所の扉が開かれた。
入ってきたのは、何だが出て行った時より更にくたびれた感のある中年警備員。顔に"やっと終わった……"と書かれているのが見える辺り、相当実家が迷惑をかけたらしい。
兎に角、これで解放されるだろう、と思っていたのだが――
「ははは、待たせてごめんよ。確認自体はすぐに終わったんだけどね……まあ、それより、ちょっと君に会いたいっていう人がいるから一緒に来てくれるかい?」
《……だれ?》
「わざわざ
おい爺。
どうやら今日の厄介事はまだまだ続きそうである。
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