第21話
「さて! 力なき人類が積み重ね研鑽してきた"道具"の最先端と、古来より脈々と形を変えずに受け継がれてきた"現象"の一端。中々興味深い組み合わせとは思わないかね!?」
意気揚々と司会をする五十嵐翁と、それに対して喝采を送る来場客。自分には関係ないと分かった瞬間、無責任に楽しみだすのが多い当たり泣きたくなってくる。
そんな人外魔境入った空間の中心には、なんでこんな物が用意されてあったのか不明だが、何故かボクシングとかプロレスとかで使うリングが設置されていた。五十嵐翁が指示してからものの数分で組み立ててられ、最初からこれやるつもりだったな畜生。
そしてそのリングの上には蜘蛛型のロボットが――六体。いやだから、ちょっと待てや。
指揮・統率タイプだと思われる大型のが一体と、汎用型と思われる装備がそれぞれ違う中型が二体。そして哨戒・近接タイプだと思われる小型のが三体。
対するのは俺。ぼっち。
……さて、こんな時の言葉はただ一つ。
ど う し て こ う な っ た。
(いやもう"前"もそうだったが、平穏とは程遠いな俺の人生)
『何事もすんなりと終わらないあたりも"前"からじゃったのか?』
(軍が関係する任務なんぞはまともに予定通り進んだためしがない。鉛玉一発打ち込めば済むのであれば楽だったんだがなあ)
俺が所属していたのは真っ当な部署ではなく、明らかにヤバい匂いしかしない類の仕事が主であった。依頼主が真っ黒なのは当たり前で、情報が漏れているのも割と普通という頭おかしい代表格。大体は最後には雇い主もターゲットもまとめて相手にするのが
だが金は火事場泥棒的に
(と、言うか。俺の術式って実家? の陰陽術とは全く違うし狐憑き関係ないんだがなー)
『それはつまり我の出番じゃな!』
(どうしたものかね)
『……あれ?』
ここで俺が勝っても"陰陽術凄い"になる訳で、あの阿呆な連中に称賛が行くってのも微妙な話なんだが。
……いや、違うな。
一時的に陰陽の評価が上がっても連中が役立たずなのは変わりないのだから、最終的には真っ逆さまに落ちるのは明白である。
(なら今はそんなことどうでもいいか。兎にも角にも目の前の玩具をどうにかしないとなー)
『結構気楽じゃな? 確かに少し前の百足に比べれば可愛いものじゃが』
それもあるが一番の理由は別にある。それもまた"前"が関係しているのだが、
(あの手の警備ロボは何度も相手にしたからな。慣れていると言えば慣れてる)
『なんと。アレはようやく形になった世界で最初の
(そゆこと。採算度外視の自爆特攻機が数で攻めてきてマジ死にかけたこともあったな……)
『毎度思うが容赦が行方不明じゃのう』
流石に世界初の自立型警備ロボである目の前のそれに、自爆機能付いてるとは思えんが。というか付いてたら会場が大惨事だ。
とりあず加減をするつもりは無いので、速攻でケリを付けないとな。
『ぬ? 加減はせんのか。意外じゃな、あまり目立たぬようにするのかと思ったが』
(理由は二つ。今はかなめ嬢は峰坂氏の傍にいるが、周りの動きが怪しい。ちょこまこと近寄ってきてるのがいるな)
ちらりと視線だけでそちらを向けば、最前列に峰坂氏達四人と御園氏親子も一緒にいるのが見えた。ただその周囲より少し離れた位置では、ここぞとばかりに妙な位置を確保している奴らがいる。現状では警戒しか出来ないとは言え、せめて気が付いてくれ椿に隆仁よ。
見世物のように時間をかけていると余計な面倒事になりかねないので、さっさと終わらせてしまうのが吉だろう。
で、二つ目の理由は、
(あの手のロボット自体がそも加減を知らねえんだよ。基本、自壊してでも対象の捕縛もしくは撃滅を前提としてるからなあ)
人間と違って壊れたところで修理や買い替えを行えば新品になるロボットだ。痛みも感じず命令に忠実で、相手を逃さぬためなら予想斜め上の機能が搭載されていることが多い。大体は発信機搭載なので万力の如くしがみ付いてくるのは当たり前。中にはそこからウン十万ボルトの電流がぶちかまされたり毒薬が仕込まれているのもあったぐらいである。
(しがみ付いてくるだけならいいが、スタンガンとか使われたら防ぐ手段がないな)
『あー……電流は術式では防げぬ部類か』
(俺のメインは身体強化だからなあ。それで言うとガスとか窒息系も苦手だが)
『普通は苦手とか以前の問題じゃと思うのだがのう……』
術式と言うくくりで見ると色々できるように感じられるが、それは単に人によって出来ること出来ないことが違い過ぎるだけだ。決して万能じゃないし、というか万能っぽく使えてたのは人間止めてた妹様ぐらいか。
アレも色んなもん犠牲にした挙句に理性ぶっ飛んでたから、結局失敗だったのか本人的には成功だったのかどっちなんだろうな。
そして俺の術式は"大型タービン"によって発生したエネルギーを扱っているイメージ。それによる身体強化と余剰エネルギーを使って小さな火やら電流を発生させるぐらいだ。
中には核シェルター並の防御特化な奴もいたが、俺はむしろ攻撃特化。そりゃ強化すれば防御も固くなっても、あくまでも攻撃力及び機動力強化の副産物でしかない。
(妹様に防御は考えるだけ無駄だったのさ……)
『遠い目をしとるとこ悪いが、もう始まるみたいじゃぞー』
既にカウントは開始され、その数値が減るごとに会場内は静かになっていく。普通に格闘技ならカウントも盛り上がるんだが、観客は中身はどうかとしても上品なヤツが多いので大人しいものだ。……いや単にあの爺のテンションに付いていけてないだけか?
最後にもう一度かなめ嬢の方を見て――方針は決まった。
そしてカウントが零になり、
(そぉい)
『えっ』
「「「えっ」」」
とりあえず全力で蹴り飛ばした。
ゴッ、と鈍い音がして一番近くにいた小型機がサッカーボールよろしく飛んでいき、百メートルほど離れた対面の壁に激突する。はいリングアウト一機と。
続く二機目は――ありゃ、三機目も含めてまだ動いていないな。まあようやく製品として出せるようになったばかりの品らしいし、人工知能はまだまだか。機械なので"驚く"ことがないが、しかしAIが搭載されたロボットは想定外の状況に極端に弱いから仕方がない。
元々単純な機能しかないのであれば確かに速いく、しかしこのような複雑な処理を行い独自判断をする代物はセンサ類が多ければ多いほど遅くなるのだ。
そしてこの二機目および三機目は俺がカメラの範囲内から"消えた"ので次に赤外線、音波などを使って位置を特定するも、しかし"それが本当に捕縛対象"なのかを自己データと親機に確認しているのだろう。相手が誰であろうと人を見かけたら即攻撃なんてのは……裏ラインナップにはあるんだろうが、少なくともこんなところで出したら大惨事だ。
中型機も似たような状態で、指揮官の大型機に至っては、一度俺が消えたので自身が壊れていないかハッキングを受けていないかをチェックしているようだ。ものの見事に完全停止している。それが故に小型機も止まりっぱなしとか、なんとお粗末な。
なので残る小型機二体も瞬間強化した足で接近&蹴り飛ばし、壁に突き刺さっていた一機目にぶち当たった。爆発は……しないタイプか。
(さくっといくぜー)
『……我は?』
何か言いたげな子狐丸を無視して今度は中型機へ。この二体はようやく動き出そうとしていたが、一瞬で近づいたらまたしたらフリーズした。どうもセンサ類の感度が弱いようだが、致命的すぎね?
『いや普通は縮地じみた移動する相手は想定せぬじゃろう』
想定していない? はっ、ロマンが足りてないな!
そこは無駄と言われつつも地球外生物とかショッ○ーみたいな改造人間などを仮想敵として開発するが"普通"だろうが!?
『うむ、それはない』
(まじでかー)
うーむ、ドクターやら他の開発者達も皆そう言ってたんだがなぁ。……あれ、俺ある意味洗脳されてた?
いや、とりあえずドクターに中指立てるのは後にしよう。さっさと中型機を片付けるか。
この中型はちと蹴り飛ばすには大きいので今度は足を一本両手で持って、
(おりゃっ!)
「……な」
向かうは同じように止まっていた中型機の二機目。それに
盛大に打撃音と金属がひしゃげて捻じ曲がる音がして、いい感じに二体ともマットに沈む。が、当然それだけでは駄目だ。叩き潰した方はまだ歪んだ体を軋みながら起こしつつあるし、叩き付けた方も火花を散らせながらまだ動く。
しゃーない。という訳で連打でゴー。
二発、三発と角度速度を変えてぶっ叩いていく。
何やら周囲が呆然唖然としているが、客観的に見ると我ながら酷いなー。見た目はか弱い幼女がロボットを蹴り飛ばすわ持ち上げて叩き付けるわと、目を覆いたくなる惨状だろう。いや、開発会社の偉そうな男はもはや目が虚ろになっているな。止めはしないけど。
気が付けば中型機二体は煙を上げて、完全に停止していた。あとは一体、さっきから自己点検で止まりっぱなしの大型だけだ。
うーん、さすがにコレを蹴り飛ばしたり投げたりするのは難しいな。
『我の出番か!?』
(仕方がない――毟るか)
『毟る!?』
とことこと歩いて近づき、足の関節部に手を伸ばして、
(まず一本)
金属製の関節やコード類もまとて鷲掴みし、八本ある内の一本を
(二本、三本、と)
捻じ切った足はそこらに投げ捨てる。
人型のようなタイプなら足は特に重要なので各所頑丈になりやすいんだが、この手の多脚型の弱点は基本関節だ。柔軟に行動させるために可動範囲を大きくしているので、どうしても接合部は装甲が少なくなる。骨に当たるフレームは固く、しかしそれを繋ぐパーツはそれ程でもないので多少強引にやれる訳である。
片側の最後取り除くと、もうその時点で動くことは出来なくなった。後は蹴り飛ばして逆さまにしておけば終了だ。
『これはひどい』
(そうか? 足無くなったら終わりとか舐めた設計してるからだろ。”前”みたく腹底からキャタピラ生えて戦車化するとかないのか)
『あってたまるか! 見ろ、見物人が阿呆の様に口を開けておるではないか』
言われ周囲を見渡せば、誰も彼もがぽかんとして固まっていた。爺は……何とか声には出てないってーか腹抱えて痙攣してるんだが、あれはどうでもいい。
やりすぎ? そんな訳はない。なぜなら、
(まだ一仕事あるしな)
『はぁ? 一体何をやらかすつもりじゃ』
(これと、あとこれでいいか。やれやれ、何もせず逃げときゃよかったものを)
『ぬ? 何故もぎ取った足を両手に持っとるのじゃ――――ってなにぃぃぃぃぃぃぃい!?』
両手に持った大型機の脚。その片方を勢い付けてブン投げた。
飛んでいった先は会場の入り口だ。
そこには、意識がはっきりとしていないのか足元がおぼつかない見知らぬ女の子と、その手を引いている明らかに怪しい男。
「!?」
男が気付いた時には遅い。
かなりの速度で飛んだ鉄塊は不届き者に直撃。交通事故的な音を響かせて男は鉄塊ごと吹っ飛んでいった。なんだか骨も砕けた音がしたが死にはせんだろ。
手が離れた女の子は反動で倒れてしまうが、そこは勘弁して欲しい。ほら、ようやく気が付いた親御さんが慌てて走ってったから大丈夫だ。……大丈夫だよな?
(やーれやれ、人が面倒事に巻き込まれてるっつーのに)
『おお? なんじゃ、てっきりかなめ嬢が狙われているのかと思うたが、別じゃったか』
(そりゃかなめ嬢だけが狙われるとかありえんだろ。何処の派閥かは分からんが、見かけたからには止めないとな。――そして本命は今からだ)
『おぅ?』
投げたのとは別で、まだ片手には一本もったままだ。それを持ったまま一瞬の溜めの後に跳躍した。
跳んだ先はかなめ嬢、のすぐ隣で今まさにその手を掴もうとしていた不届き者である。ってよく見りゃ、さっきどっかに連れてかれた筈の豚じゃねえか。
なら遠慮はいらんな!
『さっきから遠慮が欠片もなかったように思えるが!?』
(深く気にするな。と、いう訳で――二度目はねえよ豚野郎!)
豚のすぐ眼前に着地した直後、手に持っていた金属の脚をバットよろしく振りぬいた。
ガゴン! と存外重い感触が手にくるが、そのままかっ飛ばす。
(ホームラン!)
醜い悲鳴を上げて飛んだ豚は会場脇のテーブルに頭から派手に突っ込んだ。テーブルを粉砕してゴミ屑と化したそれは、何故か黒子の頭巾を被った警備員に引きずられていった。あの正体不明な警備員は……ああ、やっぱ爺の手配か。
まだ会場は呆然としていて、警備ロボがスクラップになったことを理解し、また子供が連れ去られかけていたことが伝わり、ようやく騒然とし始めた。
(ったく、捕まってたのをワザと逃がしやがったな? ……ま、何にせよ、茶番はこれで終いか)
『……そして我の出番がなかったという』
(刀、必要なとこあったか?)
『あの蜘蛛モドキとかをぶった斬ればよかったじゃろう!?』
手に持ったままだった脚はぽいっとリングに向かって投げ捨て、俺はまたかなめ嬢の隣に立つ。かなめ嬢もぽかんとしていたが、すぐにぱっと笑顔を見せてきた。うーん、自分が狙われていたと気付いている筈なんだが、天然なのか大物なのか……。
まだ口を半開きにしている隆仁の脛を蹴り飛ばし、一息つく。
『追加は来ぬのか……』
(残念そうにすんな。爺が拍手なんぞしているから来ないだろ)
隣の警備ロボットを作った会社のトップが真っ白になっており、だが誰も気にしちゃいねえ。ま、どうもいつもの事みたいだな。
『今回はあまり派手な事はなかったのう』
(こんな所でそうそう派手になってたまるか)
『安心するのじゃ。――家に帰るまでが宴会です』
(ちょ、おま)
……フラグは立たないよ、な?
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