月の世界

ついに僕たちは月までやって来た。

「この足跡は最初に月にやって来たガガーリンという人の足跡なんだって」

と由紀が解説し、大事なものだから踏まないようにと僕たちは岩の上に降り立った。

見上げると地球があって、青だったり白だったり茶色だったりして、僕は地球から見た月よりも綺麗だなって思ったんだけど「地球が綺麗ですね」っていうのが何の意味になるのか分からないので黙っていた。

月に来てはみたものの、月には石と砂くらいしか無くて、海もあるんだけどそれは何もない場所を海って呼んでいるだけで水とか貝殻とかは無く、仕方ないから月の石をおみやげにして、さあ帰ろうと思ったところでどうやって帰ろうかという話になった。

「大丈夫、任せて!」と由紀が言うので、僕たちはそこから動かずにいると、やがて月が沈んで太陽が昇ってきた。

太陽がすぐ近くまでやってくると、熱かったり眩しかったりするんだけど、よく窓際で日が当たっているときだけ空中に浮かんで見えるホコリが、太陽の近くではもっとよく見える。それも太く大きいものがたくさん見えるので、僕たちはそれを集めて糸にして、糸を織って布にして、最終的にはちょっと歪んでいるけど立派なパラシュートができあがり、僕たちはそれを掴んでえいやっと飛び降りた。

太陽の下ではおとなしくしている星たちに手を振って、カバンの中に少しだけ残っていた虹の赤がようやく空気中に溶けていって、もくもくとした雲がまた生まれつつあって、僕は腰につけていた大きな鳥の羽をパタパタと扇いでパラシュートの落ちる位置を修正し、僕たちはやっとこさ家の近くの空き地に着地した。

「なんとか月まで行って帰ってこられたね」と僕が言うと、由紀はなんだか興奮した様子で僕に抱きついてきて「うん、凄くドキドキしたし、楽しかった!」と紅潮した顔で言ってきた。そしてもう一度僕と向き合うと

「まさに『天にも昇る気持ち』だね!」と言って笑うので僕も「そうだね」と言っ。

その後、興奮しているのか抱き合っていて恥ずかしくなったのか分からないけれど、二人とも顔を真っ赤にして家に帰ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る