星の世界

服の中とカバンの中に詰め込んだ赤はだんだん消えていったけど、空の高いところまで来ていた僕たちはその分重力が軽くなっていて、赤がすっかりなくなるころには自由に飛べるくらい体が軽くなっていた。

目的地の月はますます近付いていて、あたり一面に星がきらきら光る中を僕と由紀は手を繋いで飛んでいた。

「星って最初に見つけた人が名前をつけていいんだって言うよ。」

と由紀が言うので、僕はまだ誰も見つけていない星を探してみようと思って星たちに名前を聞いて回ってみた。

「あなたの名前はなんですか?」「私はベガ」「私はデネブ」「私はアルタイル」……

学校のクラスの人数より多く星の名前を聞いたあたりで僕は疲れてきたんだけど、由紀はそんな僕を見て「そんなに目立つ明るい星が誰にも見つかっていないなんて、そんなわけがないよ」とクスクス笑っていた。

僕は半分恥ずかしいのと、半分なにくそという気分になって、絶対に誰も見つけていない星を見つけてやろうとまた色んな星に名前を聞いていったんだけれども、100個を越えたあたりで疲れてきたし、どの星に名前を聞いてどの星に聞いていないのか分からなくなってしまった。

由紀はその間、スピカという星と楽しそうにお喋りをしていたので、僕はカバンからそっとおやつの金平糖を取り出して、夜空に放り投げると「あなたは何という星ですか?」と聞いてみた。

「えっ?本当に見つけたの?」

夜空に浮かんだ金平糖は虹の赤で真っ赤に染まっていて、綺麗に赤く輝く星のようだった。

僕が「あなたは何という星ですか?」と聞くと、金平糖が「私には星の名前はありません」と答える。

「凄い、星に名前を付けられるなんて本当にロマンチック!」

由紀があまりにウットリしているものだから、これがただの金平糖なんだと言い出せず僕がどうしたものだろうと考えていると「でもなんだか金平糖みたいだね」と由紀が振り向いていたずらっぽく笑うので、最初から全部ばれていて逆に僕のことをからかっていたんだと分かって、僕たちはその後しばらく二人で大笑いした。周りの星たちも楽しげにきらきらと瞬いていた。

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