鳥の世界

階段をどんどん上っていくとそれだけ地面はどんどん低くなっていって、間もなく街で一番高い時計塔もずっと下の方に見えるようになった頃、僕はずっと由紀と手を繋いで歩いていたのに気づいて、急に恥ずかしいような、ばつが悪いような気持ちになってパッ、と由紀の手を離した。

すると由紀はまたちょっとびっくりしたような顔になって「どうしたの?」と言ってきた。

「なんでもない、階段を上るなら手を繋がないほうが歩きやすいかなって思って。」と僕はそれっぽい理由を言ってごまかしたけれど、由紀は「でも手を繋いでいた方が足を踏み外した時にも危なくないよ。」と言ってまた僕の手を握ってきた。

僕はそれ以上何も理由を思いつかなかったので、由紀と手を繋いだまま、まだ少しだけ恥ずかしいような、ばつが悪いような気持ちで階段をどんどん上っていった。

どんどんどんどん階段を上っていくと、

「おおーい、そこの君たちー、ちょっとそこで休ませておくれよー」

ばっさばっさ、ばっさばっさと、とても大きな羽音を立てて、とても大きな鳥がやって来た。

とても大きな鳥の背中には中くらいの大きさの鳥が止まっていて、中くらいの大きさの鳥の背中には小さな鳥が止まっていて、小さな鳥の背中にはもっと小さな小鳥が3羽止まっていた。

「いやあ助かった。高い空までみんなで遠足に来たのはいいけれど、止まるところがなくて困っていたんだよ。小鳥たちは小さな鳥の背中で休んで、小さな鳥は中くらいの鳥の背中で休んで、中くらいの鳥は僕の背中で休んでいたんだけれど、僕には休む場所がなかったからね、ああ本当によかった。」

ちょうどいいいので僕たちも休憩することにして、僕はカバンからコッペパンを取り出した。

コッペパンを半分に割って由紀に渡すと、由紀はそのコッペパンをまた半分にして大きな鳥に渡し、大きな鳥はそのコッペパンをまた半分にして中くらいの鳥に渡し、中くらいの鳥はそのコッペパンをまた半分にして小さな鳥に渡し、小さな鳥はそのコッペパンを三つに分けて、もうその頃になるとコッペパンはパンくずのような大きさになっていたけれど、そのパンくずを小鳥たちに渡した。

鳥たちはそれで体の大きさ通りのパンが行き渡ったけれど、僕と由紀は由紀の方が少し背が大きいくらいなのに、僕はコッペパンの半分を持っていて、由紀はコッペパンの半分の半分しか持っていなかったので、僕のコッペパンを少し由紀にあげた。

そしたら由紀は「ありがとう。」とニッコリ笑ったんだけど、その顔が可愛すぎて僕は思わずコッペパンを自分の口に詰め込んだ。

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