飴玉の詩
『飴玉の詩』
決して消えないよと言った貴方が溶けていなくなるのを眺めていた。ここから全てが消える訳でもないというのに。何がなくなるという訳でもないのに。存在だけが失われていく。居場所だけが失われていく。それは穏やかな誤字だと思いたかったんだ。遥か上空の太陽に願う。強くならないで。
『辻褄の詩』
満天の星空の次に夕日がやって来ることは無い。私が昨日、今日起こったことを思い出すことも無い。それでも貴方は私が何かを思い耽っているところを、微笑みながら鑑賞する。道路標識を写した民家のガラスの隣に写る私は、どこへでも行けそうだ。あの夜空の最果てまで行ってしまおうか。
『朱の歌』
夕焼け空が朱から紫に変化してゆく頃、天気雨の光を浴びる。水の凹凸が反射するそこには綺麗な虹が浮かび上がるはずだったのに、濡れて黒っぽくなったコンクリートには何も映らず、ただ夜だけが近づいてくる。傘を持たない私は何処へも行けず、迫り来る闇を前に途方に暮れるしかなかった。
『魚になりたい詩』
街の雑踏に心が轢かれたから、あの水族館の静寂が愛しい。あの揺蕩う水が屈曲させた光を浴びて泳ぐ魚に手を伸ばす。阻むアクリルに指紋を残しながら、明日の仕事のことだとか見えない将来のことなんかを考える。弱肉強食の世界の生き物が、それすらしなくなった。魚は何を考える。
『夜景の詩』
車のクラクションやエンジン音。終点の駅ホームを反響する石ころの潰れる音。誰かのスマートフォンの液晶が割れる頃には雑踏から人々の姿が消え始める。全てから離れた山奥では朝が来るのが待ち遠しいと感じる程に、世界は闇に溶け込んでいた。傷ついた液晶は、修理されずに捨てられる。
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