寿命の詩
『糸の詩』
思いのままに形作ることが可能であるというのに容易ではないから紐を解いた。固く、しかし切れそうな繊細さを脆さを貴方に付与して。私達の繋がりは無い様なものだ。別の糸に違いはないのだから、交わると言うことも出来ない関係。縁を切ることも鋏があれば容易な世界で、何を求めようか。
『悪い人の詩』
罪を犯す事は悪い事。戦争を始めるのは悪い事。暴力を振るうのは悪い事。悪い人はそれを何とも思わない人。だからどうしたと開き直り、謝りも反省もしない人の事。だってそうじゃないと、君が悪者になってしまう。僕は悪ではないと君が言ったから、僕はなんとか生き延びられるんだよ。
『寿命の詩』
点滅する電球の回路を繋ぐ銅線。触れる空気に含まれる湿度や酸素で錆びゆく銅線。その空気に包まれる私の吐く二酸化炭素。私の、貴方の、電球の、LEDとは違う温もり。熱を放ち切った、まだ熱いガラスに触れて出来た火傷からは、懐かしい仏間の畳の匂いと、火のついた線香の匂いが漂った。
『炭鉱の詩』
怒りを風化させることは決して容易ではないから、まだ此処へあの子を近づけてはならないよ。登山家に、そう伝言を頼んだ。幼い君が来るには早すぎるあまりに危険なこの場所で、僕は生きる為に岩を砕き言葉を飲み込み聴力も肺活量も失っていく。これで君が生き延びれるなら、安いものだ。
『公衆電話の詩』
暗闇に浮かび上がるそれは、そこにある事を記憶されているかも危うい。緑色と赤色、夜空の藍色。完全に割れたディスプレイ、遠くまで飛び散ったガラスとぐちゃぐちゃに歪んだただの鉄の塊。それを此処から凝視し続ける。緑色の電話をあの日手に取れてたら、何か変わっていたのかな。
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