水音の詩

『水音の詩』

水面の波紋に恋い焦がれながら眺める。風が木の枝を揺らすだけの静かな空間には、有限の時間を楽しむだけの余裕に満ちていた。泳ぐ影が視界を行ったり来たりするのを見つめるのは無駄な事ではないか。池を見つつ少し考え込む。漸く水中から魚が水の膜をつつく頃、諦念はあるのだろうか。




『雨戸の詩』

強風が音を立てて耳と部屋に滑り込んでくる。隙間風が酷く、この家屋の古さを体現していた。コンクリートの森の中では、自然は余りにも強く人間を襲う。つい先日も、災害を身近に感じさせられた。嵐の中で眠れない私を寝かしつけようとしてくれる貴方が、どうか今頃眠れていますように。




『迷子の詩』

感情なんて瓦礫か何かに潰されてしまえばいい、とあからさまに強がった発言をしているあの子も、神に願っても救われるわけがないから人間にも願わない、と悲しい事を言っているあの子もいつもどこかで希望的観測を夢見ているのならば、まだまだ永訣は遥か遠くで蠢くしかないのであろう。




『焦燥の詩』

生き急ぎすぎて燃え尽きてしまったから、燃料不足。落下したあの塊の衝撃というものは、途方もないものだった。その衝撃とよく似た私は、いつでも燃え尽き症候群で。何処までも、足を引き摺り歩き回る。痛い、惨めで仕方が無い。それでも私は、屑は屑でも星屑なのだと、あの流星に祈る。




『櫛の詩』

風に膨らんだ髪が余りに長く綺麗で記憶に焼き付いているというのに過去が疑えと促してくる。記憶の引き出しは何処へもいかないのに、引き出しの鍵は何処かへいってしまっていて。誰かが持ち出したのか自分が失くしたのかすらわからない。あの長髪が、長く綺麗だったと証明するものは無い。

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