十五夜の詩

『博物館の詩』

首から花を噴き出す私に美しいと言うのだから、きっと世界が花に満ちても化石に満ちてもコンクリートで満ちても私が居なくなっても特に困りはしないのでしょう。そんな孤独と孤高と無自覚の狭間で何を考えるのですか。そして、それは私という人間が想像してわかり得るものなのですか。




『砂漠の詩』

水を草木が育てると言えば、逆説であろうと笑うのは浅はかだ。澄んだあの空気を育てる植物は恵みをもたらし、そのものすら大きな恵みだ。水を欲しながらも砂を噛んで生き延びたあの放浪者の透明な血液から、どれほど生命の力強さを感じれるだろう。まだ、オアシスを諦めるには早すぎる。




『空気清浄機の詩』

私を照らし浮かび上がらせるのは呼吸をするようなスマートフォンの灯り。ふわりと漂うことを悪というならば、貴女の胎内を漂う小さな者は何者だという。どこかでファンが回る音がするから安心している貴女と私が彷徨う理由は、風に包まれているという点では全く同じものであろう。




『十五夜の詩』

彼が飛び跳ねるなら私は地となろうか。泡になるならあのグラスから溢れ出てしまおうか。転がり落ちてしまうならこの場所には意味などあるのだろうか。遠い光を見ようと迷い込んだ先は、ススキが風に揺れる山。あと少し待てば待望の未来が見えるというのに三日月の切っ先に殺されたい。




『彼岸花の詩』

駆け巡る情景と青色が鮮明であったのに、汗も引いた頃に朱が撒き散らされてインクの様だ。目に鮮やかに刺さっては脳天まで突き抜けていくから焼き付いて離れない。あの春の日から漸くここまで来たのだ。あの熱を乗り越えた私は、情熱的な色に出逢えるほどになったのだから、怖くない。

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