#9 俺、遭遇

昼食を食べ終えた俺は、館をくまなくうろついた。

長テーブルと椅子しか置いていないダイニング、空の本棚が並ぶ書庫、使われた形跡のない寝室……。


見れば見るほど、引越ししたての家って感じだ。

建てられてすぐに乗っ取られたんだろうなあ。


しかし、本当に広い。探索するだけで日が沈みそうだ。

流石にこれだけ広いと、半日ずっとうろつくってのは骨が折れそうだな。


どうにか簡単に家の間取りを把握できないものか。

例えば、スマホにそれらしいアプリがあったり……。



「……」


あった。

スマホを見たら良さそうなアプリがあったぞ。


『かんたん間取り図』……か。


こんなアプリは生前じゃあ見たことないな。

たぶん部屋の間取りを表示してくれるアプリなのだろうが、そんな事ができるのか?


ええい、物は試しだ。とりあえず起動!ポチっとな!



『( i ) 周辺に登録された部屋が見つかりませんでした。』


登録制かーーい!!


いやまあ、そりゃそうか。人の家の間取りなんてわかるわけないもんな。

こないだ使った地図のアプリが高性能すぎただけだ。


ところで、これに登録されてる家ってどこなん だろう? まず誰が登録してるんだ?神様か?


……見てみたら民家以外の施設がほとんど登録されてるじゃないか。

プライバシーが問題なかったら登録されてるもんなのか。

ちくしょう、ここが民家じゃなければなぁ。


『♪〜』


ん?神様から着信だ。


「もしもし?」


「もしもし! わしぢゃ!」


「ですよね。急にどうしたんですか?」


「そのアプリについてのアドバイスぢゃ!」


「……どこから見てるんです?」


「神様だからわかるのぢゃ! で、そのアプリはな、登録制のほかに端末が自動で記録する機能があっての! 民家であっても一度訪れた部屋なら登録されるのぢゃ!」


「えっ、そうなんですか? そりゃ便利ですね」


「ほっほっほ、そうぢゃろ? ガンガン利用してくれい!」


『プツッ ツー ツー』


切られた。忙しい神様だ。

しかしアプリの使い方はそれとなくわかった。なるほど、ならアプリに出るわけか。


……。


つまり半日かけて見回らないとか……。



――



すっかり日は暮れて、明かりが必要になる時間帯。

間食にまた注文していたベーグルと牛乳を片手に、俺はやっと館の見回りを終えたところだ。

アプリにもしっかり間取りが表示されている。


「ふぅ、これで館ん中を逃げ回られても大丈夫だぞ」


俺は一息つくと、すこし体が重いことに気がついた。


「あぁ、ずっと歩いてたからなあ。ちょっと休憩しよっかな」


近くの寝室に向かい、ベーグルと牛乳をサイドテーブルに置くと、そのままベッドでゆっくりと横になった。


「夜ご飯はこれがあるし、その後は魔族が来る時間までゆっくりしてるかな……」


ベッドで転がりながら、サイドテーブルのランプを点灯。

当たり前のように電球だったが気にしない。


さて、あとは来るまでどうしてようか。


特に眠くはない。むしろ寝てしまっては魔族が出現してもわからなくなる。


横になったままじっとしているのだが、何もしないというのも若干しんどい。


何か暇つぶしでも無いものか。


「……おっ?」


スマホのアプリ一覧を眺めていると、気になるアプリがあった。


「『アイドルフレンズ』……?」


ソーシャルゲームのようだ。タイトル通り、アイドルと仲良くなるゲームらしい。これなら暇つぶしには良さそうだ。


『「アイドル〜、フレンズっ!」』


起動すると、女の子の声が端末から流れた。


内容は大体ノベルゲームのようだ。チュートリアルをそれとなく進めていくうちに、様々な女の子が次々登場する。


「多いなぁ……」


そう考えながらも、ゲームを進める手は止まらない。


ついには『ガチャ』を引くところまで来た。


「いいの出るといいなあ」


最初は10連が無料だそうだ。もちろん躊躇なく回す。ポチッとな。


すると画面が変わり、次々と女の子アイドルが排出される。


個性豊かでどれも可愛いが、いかんせん皆レア度が低い。


「最高レアでるかなー」


ぼやきながら画面を眺めていたが、9連目までは低めのレア度アンコモン。若干悔しかった。


しかし、きたる10連目。そこから排出されたのは、きらびやかに輝くフレーム。

なんとここで最高レアのアイドルが出た!


「うおーっ!? 出たー! ホントに出た!」


「わぁっ!?」


思わずベッドを跳ね起きて喜んだ。

長い銀髪を揺らし、ニッコリと笑顔を見せる彼女の名は『星河ほしかわ 輝世てるよ』。

俺は決めた。この子をメインキャラにしよう!



……待て。


『わぁ』って聞こえたぞ。


誰の声だ?いや、もう予想はついている。


俺は唾を飲み、ゆっくりと横を見た。


そこに居たのは、青髪で、薄着で、翼と、角の生えた、小さな子供……。


「んもう!夜なんだからもっと静かにするイン!」


「出、出っ、出たーーーーーーッ!!」

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