#4 俺、乱闘

「ジェット、あの人は知り合いの人なのか!?」


「いや、初対面だ。だが奴の名前は知っているぞ」


「ハハハァ、そうだな! 初めましてだなジェット! だがお前も俺様の名前を知ってるとは光栄だぜ!」


モヒカン頭の男――モルヒネは、ズカズカと酒場へと入ってきた。

部屋内にちよっとした緊張が走る。


「そりゃあ知っているとも。『勝負師ギャンブラーモルヒネ』の名はどの町にいても聞くからな」


「嬉しいねぇ! でもそういうお前も有名人じゃねえか! なんたってドラゴンから町を救った英雄さんだもんなぁ!」


「アレはドラゴンが徒歩で町の周りをうろついて危ないから、俺は飛んで移動するよう指示しただけだ。何も特別なことじゃない」


「その勇気ある行動が賞賛されてるんだよなァ〜〜!」


言い合いが続く。

ふたりともすごい人達なのだろうか。

少しばかり気にはなるが、今はモヒカンの彼の話を聞いてあげよう。


「話してるとこ悪いんだけど、モルヒネさんはどういう用件でジェットに会いに?」


「ん?そりゃあ勝負のためよ。ところでお前は誰だ?」


「俺の名前は一郎。成美って人を探してるんだ」


「イチローか。お前こそジェットと何を話してたんだ」


「俺はジェットに有名人になる方法を聞いてたんだ。有名になれば、成美側から見つけてくれるかもしれないからね」


「有名になる方法ゥ?ふーん……それなら俺様、知ってるぜ?」


「えっ!?」


モルヒネさんは有名人になる方法を知っているのか! どのような方法なんだ!?


「そ、その話、是非詳しく!」


「なぁに、簡単さ。この俺様と勝負すればいいんだよ!」


「勝負!?」


モルヒネさんと闘う事で有名に……?つまり彼は戦闘のプロといったところなのだろうか。

そんな相手に勝てるのか? いや、勝負に持ち込んだという事が自慢になるかもしれない。

何よりこんな所でなりふり構ってはいられないのだ。俺がやるべきことはひとつだ。


「そうか……よしわかった!」


俺はモルヒネさんに対し身構えた。拳法やら武闘やらにはからっきしだったが、昔テレビで見たそれっぽいポーズでモルヒネさんを待ち構えた。



すると、俺の姿を見たモルヒネさんは目を丸くする。


「えっ? いやいや、違う違う違う!」


あれ?


大きく首を振るモルヒネさん。俺はなにやら勘違いしてしまったのか。


「そうじゃなくて、俺と何かしら競い合うって意味だよ! 殴り合いなんてしたら痛いだろう!」


「あっ、そういう……」


戦闘とかじゃなくてゲームをやるって事か。そういえば『勝負師ギャンブラー』って呼ばれてたもんな。

それに気がついたら、なんだか少し恥ずかしくなった。


「はっはっは! イチローは気が早いな!」


「ンモー笑うなよジェット!」


ジェットが大口を開けて笑っている。

余計恥ずかしくなってきた。

早く話を進めてしまおう。


「で! どういう勝負をするの?」


「そうだな。じゃあ、ヌタムシ相撲でどうだ?」


?」


なんだそれは。相撲はわかるが、ヌタムシってなんだ。


「ヌタムシってなんだ?虫か何かか?」


「え、ヌタムシはヌタムシだろ。森によくいるあのヌタムシだよ」


モルヒネさんがキョトン顔で答えてくれたが、あまりに一般的すぎる存在なのか、『どういうモノか考えたこともなかった』みたいな内容……。

、って言われてもなぁ。この世界特有のモノなんか知らないし……。


「もしかして、ヌタムシ知らないのか?珍しい奴だなぁ」


ジェットも言うか。ちくしょう、スマホで検索したら出るかな。



|

|[ヌタムシ とは   ]🔍

|

|ヌタムシ - Willpedia

|



出た。ネットの情報もこの世界に合わせてるのか。案外検索してみるもんだ。

でもウィルペディアってなんだ。


「なになに……ヌタムシとは、ミズズマイムシ科ヌタムシ属に分類される昆虫の一種。広義には、トモツブシ科の昆虫も指す……」


「なんだ、スマホってのは知りたい事教えてくれるのかい?」


ジェットが興味ありげに画面を覗いてきた。


「え?ああ、やってみたら出来た。ヌタムシについてはこれでわかりそうだよ」


「お?便利そうだなその板。いいもん持ってんじゃん」


モルヒネさんもスマホに首を伸ばしてくる。こうも画面を覗かれると普段はイヤだが、今はちょっと誇らしい気分だ。


「すごいでしょう? 世界にひとつだけの自慢のスマホだよ」


「なあ、それって他には何ができんのさ?」


「他に?そうだなぁ……。あっ、ヌタムシの居場所とかできるかな?」


マップでヌタムシを検索してみた。

すると地図が画面に表示され、森っぽい所にピンがいくつか立った。


たぶん探知できてる……。便利すぎではないか?


「出たよ。出ちゃった」


「すごいなこれ! これがありゃヌタムシ探しは問題なさそうだな!」


スマホがヌタムシ探知機に早変わりだ。モルヒネさんからの好感度も上々っぽいしいい感じ。


「これでヌタムシの場所はわかったぜ。それで、見つけたらどうするの? やっぱり持ち寄って戦わせるの?」


「ああ。好きなヌタムシを拾ってきて、そいつらを戦わせるんだ。んで先に相手を投げた方の持ち主が勝ちってルールさ。簡単だろ?」


うすうす分かっていたけど、やっぱほぼカブトムシ相撲か。子供の頃やったことあるぞ。


「それなら俺もわかるぞ……! よし決めた! 探す場所もスマホでわかったし、早速探しに行くぞ! ヌタムシ!」


「そうこなくっちゃな! イチローってば行動派ぁ!」


「捕まえたら酒場に集合な!」


俺はそう言ってモルヒネさんと共に酒場を飛び出し、地図とモルヒネさんを頼りに森の方へと走りだした。


「おうおう……俺との勝負はナシか?」


ジェットが後ろでやれやれと声を漏らしていた。だが悪いけど今回は俺に戦わせてくれ、ジェット!

これで勝てば少なからず有名にはなるはずなんだ。俺が頑張って強いヌタムシを見つけなければ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る