恋人探しの章
#2 俺、転生
目を開けると、俺は神殿の中で横たわっていた。
理由は知っている。異世界に転生したからだ。
俺は異世界の神殿へと降り立っていたのだ。
「よいしょ……」
ゆっくりと体を起こし、己の右手に視線を下ろす。
その手には、小さなスマートフォンが握られていた。
これは、神様から授かった道具だ。
少し遡るが、空の上で神様とこんな話をした。
―
――
「転生するのぢゃな? よろしい。では冒険のお供に、何か1つ道具を与えよう」
「なんでもいいんですか?」
「なんでもはダメぢゃ。最強の剣とか、死なない体とかはダメ。面白くないからのう」
「……じゃあどのくらいの規模ならいいんですか?」
「そうぢゃな、例えば世界の色々な事が書いてある本、とかはどうぢゃ?」
「本は……かさばりそうだなぁ。世界のって絶対ぶ厚くなりますよね」
「うむう、じゃあ聞いた質問を答えてくれる魔法の本、とかはどうぢゃ?」
「あ、それコンパクトで良さそうですね!」
「ほれ、サンプルぢゃ」
「うわあ早い。でもまだ若干大きいですね」
「む、A4のノートより小さく……文庫本サイズかの?」
「えっと、片手に収まるくらいで」
「ほれ、このくらいかの」
「あーそのくらいそのくらいです!」
「ほっほっほ! この大きさ、まるでリモコン……いやスマホみたいぢゃの!」
「あはは! 確かに! ……スマホ?」
「うむ、スマホ。おぬしが若かった頃に流通したあのスマートフォンぢゃ。」
「……この本、質問に答えてくれる機能だけですよね?」
「うむ」
「それ以外の機能無いですよね?」
「……うむ」
「……じゃあ……すごく便利な高性能スマホが欲しいです!」
――
―
そういうわけで、スマホを神様から頂いた。
高性能とは注文したが、どの程度すごい代物になったのだろうか。
ふと考えていると、突然スマホに着信が来た。
「うわっ!? ……もしもし?」
「ほっほっほ。わしぢゃ!」
神様からだ。神様と通話ができるのは便利だな。
「通話できるんですね」
「便利ぢゃろう?他にも色々機能があるぞい」
「例えば、どういうのが?」
「まず地図機能! これで初めての町も安心ぢゃ!」
「地図……地図……、これか」
“MAP”と書かれたアイコンを押すと、そこには見たことのない地図が映し出された。
異世界だから当然ではある。
「おお」
「次に写真機能!」
“フォト”と書かれたアイコンを押す。
すると画面にはスマホの向こう側が映し出された。
背面を見ると、上側に小さなカメラが備わっていた。
「おおー」
「さらに検索機能! これはすごく便利なんぢゃ!」
“インターネット”と書かれたアイコンを押すと、検索画面のようなものが映し出された。
「何か検索してみい」
「えーと……じゃあ、『小説家になろう』っと」
「そこは『カクヨム』でいいぢゃろ!」
「あい」
検索すると、画面には色々なサイトが並んで表示された。
中にはWikiもあるようだ。
「すごいな……元の世界と繋がってるんですか?」
「そうぢゃ! ……まあ、あっちのニュースとか、あっちとコミュニケーションが取れるSNSとかは受信できないがの」
現世の状況とかは詮索できないようだ。
正直のところ興味ないと言ったら嘘にはなるが、そこまで欲しいものではないし、そこは切り替えていくことにしよう。
「いいですねこれ……!ホントにまんまスマホじゃないですか!」
スマホとして高性能かどうかは怪しかったが、十分便利なレベルのものだった。
「ほっほっほ!他にも便利な機能がいっぱいあるんぢゃ!今は割愛するがの」
「なんでですか?」
「面倒だからぢゃ」
「……そうですか。ところで、成美はどこに?」
「ほっほ、それは秘密ぢゃ」
「えぇ?」
「どこかに隠してるわけではないんぢゃが、やっぱ探す過程も見たくての!」
娯楽目的に呼ばれたってことが身に染みてわかる。そうでなくとも神様って変に試練課すよな。
「この物好きめ。人の苦労がそんな好きか!」
「ほっほっほ!」
思わず口が悪くなってしまった。
てかなにわろてんねん。図星かよ。
「でも、右も左もわからないんですから流石に少しくらい助けてくださいよ」
「むー、仕方ないのう。ではその後ろにおる神官に色々聞きなさい」
神様がそう言い残すと、通話は切れた。ガチャ切りされた。
「……後ろの神官?」
振り向くと、そこには白い制服を着た若い女神官が立っていた。
とても怪訝な表情でこちらを見ている。
「おぁ……! いつから……」
「だ、誰とお話ししているんですか?」
「え? えっと……神様、と、だけど……」
「えぇ!?」
いかにも混乱してそうな表情だ。
焦って正直に答えてしまったが、神様と話しただなんて信じてもらえるのか。
「そのプレートでって事ですか!?」
「プレート? あぁ〜……まぁそうだな!」
どうやら神様云々は信じてもらえたらしい。
あとプレートはスマホのことだろうな。見たことない人から見たら魔法の板なんだろうか。
「今回はまた凄い人が来ましたね……。祈祷師の方ですか?」
祈祷師……神様とお話しするという点からだいぶ飛んだな。祈祷師はむしろ君でしょ。
「そういうのじゃないよ。ただ通話……えーっと、この板があれば誰でもできるやつよ」
「その……板で……」
女神官は
「……ほら、使ってみる?」
思わず女神官にスマホを差し出した。興味深く見る姿が嬉しかったからだ。
「おぉ……」
女神官はスマホを受け取ると、目を丸くしながら見つめていた。
裏返したり、カメラを見つめたり、物理ボタンを撫でたりしていた。
少し経つと、女神官はハッとした表情で動きを止める。
「……っ! こんな事してる場合じゃありません!お返します!」
アセアセと慌てながら、俺にスマホを返してくれた。
「名乗るのが遅れました。私の名前ははpsymcwanh。発音が難しいのでシンカンと呼んでください。」
「そういや名乗ってなかったか。俺の名前は一郎だ。よろしくな、シンカンさん。」
神官のシンカン……覚えやすい名前だ。
中国語みたいな発音が聞こえたので、ふとこの世界の言語に対応できるか不安になったが、発音が難しいと自称するあたり特殊な例みたいだ。
よくよく考えたら日本語で喋っているし懸念は無いかもしれない。
そうとなれば早いとこ話を進められそうだ。
「で、早速質問なんだけど……『鈴木成美』って人、知らない?」
「スズ……? ああー! ナルミさんですか!? 知ってます知ってます」
「よかった! 成美は今どこに?」
「あぁ、いえ、そこまでは……」
居場所は知らなかったようだ。
話を聞いてみれば、自分が成美の転生を担当したから知ってるとの事だった。そら知ってるわな。
「困ったな。この世界がどれだけ広いかも知らないのに手探りは面倒だぞ」
「たしかに大変ですね……。あっ、でもそれなら自分の方が見つけてもらえばいいじゃないですか!」
「どうやって」
「単純な話ですよ! 自分が有名人なって世界に名を轟かせればナルミさんも気がついてくれるって事です!」
「なーるほど! それなら自分は世界の果てまで探す必要もないし、最悪探してたもらえるよう宣伝すればいいな!」
「でしょうでしょう!?」
「そんな簡単に有名人になれるかーっ!」
つい叫んでしまった。
そんな絵に描いた餅で成美を見つけられたら苦労せんわ。
「ひえーっ! あっ、いえでも、そのプレートがあれば一躍時の人ですよ! とりあえずチャレンジしましょうよ! チャレンジ精神大事です!」
プレート――スマホがあれば有名になれるって?
……そうか、この世界だとスマホは珍しいのか。
シンカンさんのスマホを触るリアクションからして存在すらしないような感じがする。
それがわかれば話は変わる。なんとなく希望が見えてきたぞ。
「えぇ? うーん……まあそういやそうだな! 俺には
「ですです! イチローさんならやれます!」
そうと分かれば早速実践したい。
人の多いところに行ってアピールしなければ。
「じゃあシンカンさん、人が集まってる所ってどこかな!?」
「えーっと、そうですね……あっ、酒場なんかどうでしょう!? 子供とかはいないですけど、職業関係なく人が集まってくる場所ですよ!」
「なるほど、そこで良さそうだな! じゃあ俺、酒場行ってくる! ありがとうシンカンさん!」
「どういたしまして! 頑張ってくださーい!」
手を振ってくれているシンカンさんを後に、俺は颯爽と駆け出した。
希望は見えたぞ。早速酒場へ行って、有名人への第一歩だ!
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