スマートフォンを片手に異世界へ飛び込んだ結果苦戦するかと思いきや何故か充電環境あるし電波通るわ検索できるわで意外と不自由なくスマホ活用できた上にそれなりにあるコミュ力で友達もとい仲間がたくさん増えた件

Lein.

#1 俺、大往生

「……ちゃん……」


「おじいちゃん……!」


孫の声が聞こえる。


病院のベッドで、俺は家族に囲まれていた。


妻には16年前に先立たれたし、自分もかれこれ97歳だ。

寿命を迎えても全くおかしくはない年齢だった。


「おお……お前たち……今まで……ありがとうな……」


最後の力を振り絞り、家族に最期の言葉を投げかけた。


「おじいちゃん!」


「お父さん……っ」


「兄貴……」


「お義父さん……!」


家族達の声が絶え間なく聞こえる。

視界がくらんでよく見えなくとも、皆から見守られているのがよくわかる。


あぁ、恵まれた人生だったなぁ。


俺はもう思い残す事なんてない。

あとは、妻の待つ場所へ向かうだけだ。


さらば家族よ。


俺は……



先に……







――――――










気がついたら、俺は雲の上にいた。


体がなんとなくフワフワとしていて、天に召されたという感覚が肌で伝わってくる。

本当に死んでしまったんだなと、しみじみした。


ところで、なんだか体に張りのある感覚がある。

どうしたのかと、自分の手のひらを見下ろした。


そこには、あの病室で何度も見たシワだらけの腕は無く、代わりに程よく筋肉の付いた若々しい腕がたたずんでいた。


「あれ?」


自分の体が老体ではないと、すぐさま気がついた。

服装も若いころによく着ていたイケイケの服だ。


青いデニムジャケットに濃い色のジーパン、

額には前髪を持ち上げるように赤いバンダナが巻かれている所まで当時通りだ。


どうしてだろう?魂は自分のピークの姿になるのか?


まあ、晩年よりずっと体が軽いのだから悪いことではない。

そういうものってことで終わらせてしまおう。ラッキー、ラッキー。


しかし、ここが天国なのだろうか。それとも、まだ天国までの道中だろうか。


ここが天国だったら嫌だなあ。

青空が広がって清々しい景色だけど、逆を言えば何もない。雲が一面に敷かれているだけだ。

まあ、他の人の姿も無いし、ここが天国って事は無さそうだが……。


いや、天国は本当に存在するのかも怪しいぞ。

もしかして、今は幽体離脱のような状態ってだけで、この雲は本当に上空を漂ってるだけで……帰る身体を失った俺はそのうち消えてしまうとか?

他の人はもう消えてるってことか?


消えるのも嫌だなあ。

死んだからには是非天国とやらを見たいものだ。


いや、今考えると、天国があっても地獄行き…なんて可能性もあるわけだ。


心当たりならいくらでもある。

若い頃にバイクで猫を轢いてしまった事もあるし、拾った一万円札をそのままネコババした事もある。地獄に落ちるとしたら結構深いところに落とされかねん。


ならばいっそ消えたいな…。

死んでなお苦しむのはごめんだ。あの時の猫ちゃんも今更だがすまなかった。諭吉の持ち主もすまなかった。

ナルミよ、どうやら俺は会えなさそうだ。

こんな事なら悪いことなんてしなければ良かった。


俺は雲の上でただ立ち尽くし、ひとりで憂鬱になっていた。


なにせここは何もない。

気が遠くなるような青空だったのだ。精神に良くないなんてことはよくわかる。


もしかして、俺はすでに地獄に居るのか――



そんな、勝手な妄想をしている所だった。


「おぬし」


後ろから声を掛けられた。


「うぉっ、誰!?」


驚いた勢いで後ろを振り返ると、そこには髭を蓄えた老人がいた。


「ほっほ、驚かせてすまんの。わしは神様ぢゃ」


「か、神様?」


なんだこいつ。


神様という言葉自体は疑ってはいない。俺は今まさに雲の上にいるのだから神様くらい信じる。


だが、もう少し後光とか、大きさとか……尊さがある神様を想像していた。


だが目の前にいるのはおじいさんだ。

見た目的には、晩年の俺よりは若そうだぞ。


「神様……ですか。……なんか若干ちゃっちいですね」


パニックからか、初対面相手に無礼な言動をしてしまった。傷ついてたら謝ろう。


「ちゃっ……!?ああいや、うーん……確かに、おぬしの所におる神と比べたらそうかもしれんがのう……」


俺の所の?地元のってことか?

それじゃあこの人は別の土地の神様?


そうやって俺が不思議に思っている所へ、神様が口を挟む。


「わしはな、デディスカイケンの世界を司る神様なんぢゃ」


「……ディディ……?」


なんだそれは。


「名前は無理に覚えんでもいいぞい。つまり、お前の世界とは違う所を守る神様をやっとるんぢゃ」


知らない土地の神様だった。


「はあ。その違う世界の神様が俺に何の用です?」


「まあまあ。ここで立ち話もなんだ。そこに座りなさい」


そう言いながら、神様は後ろを向く。


そこには、いつのまにか4畳半の畳が敷かれており、真ん中にはちゃぶ台が鎮座していた。


「あれ、いつから……」


「ほっほっほ。わしは神様ぢゃからな」


神様が用意してくれたのか。

なるほど優しいと思いながら、俺は畳に座り込んだ。


「……神様はなんでも出せるんですか?」


「そうぢゃ。お菓子だって出せるぞい。ほれ、ポテチ」


「ほえー。あっ、筒に入ってるタイプのってあります?」


「あるぞい」


神様はどこからかお菓子を数個出した。

いくら見てもどこから出てるのかがわからない。

それどころか、現れる瞬間もわからない。いつのまにか持っているのだ。


神様ってすごいなあ。俺はそう思いながら、筒に入ったポテチを開封する。


「それで、私に何の用でしょう」


「それなんぢゃがな……おぬしに、わしの世界に来て欲しいのぢゃ」


「はぁ……えぇ?」


ポテチを食べようとした手が止まる。

この神様が管理してる世界に? 俺が?

なんで。


「なんで私なんです?」


「あぁいや、すまんがおぬしだから選んだわけではないんぢゃ」


居たから、ということか。

俺じゃなくても良いというのはちょっとシャクだが、かく言う俺も選ばれるような長所は無い。しいて言えば、人生は順風満帆だったって事くらいだ。

だが、適当な人選で何をするつもりなんだろう?


「そうですか……。じゃあどうしてあなたの世界に?」


「いやぁ、重い理由とかは無い。ほぼ面白半分ぢゃ!」


「面白半分!?」


「そう。わしの世界は戦争などは起きてない程度に平和で、これといった苦労はないんぢゃが、いかんせんそれでは退屈でのう」


「それで僕らみたいな死んだ人たちを呼んでると?」


「そういうことぢゃ! おぬしみたいに死ぬべくして死んだ者達なら呼んでもいいと言われておるし、おぬしも第2の人生を歩めてwin-winうぃんうぃんぢゃ!」


「そうですか……。まあ面白そうだし俺は別に構わないけど……あっいや、良くない! そうだ成美なるみ!」


「うむ?」


行こうかと思ったが、大切なことを思い出した。

成美とは、俺の妻のことだ。

そうだ、天国で妻と再会しなくては。

他の世界へ行っている場合じゃない。


「実は、天国で妻が待っているんです。だから、俺は会うために天国に行かなきゃなんです! だからこれは別の人に……」


正直、デデなんとかっていう世界は確かに気になる。

だが、それよりも今は妻に会いたい。

死に別れしたっきりなんだ。会えるとわかったら会いたくてたまらない。

神様には悪いが、他を当たってもらおう。まあ、見た感じ周囲に居るのかも怪しい所だが。



「むむ、待ち人がおるのか。なら仕方がないが……ナルミかぁ……」


引き下がってくれた優しい神様だったが、妻の名前に何かが引っかかった様子だ。


「え? ええ、名前は成美ですが…どうかしましたか?」


「いや、この間異世界うちに来てくれたのがナルミという名前でのう」


「へえ、それは奇遇ですね」


「それはそれはべっぴんさんだったぞい」


「……どんな感じで?」


べっぴん……気になる。名前が同じ彼女はどんな人だったのだろう。

若干だが鼻の下が伸びる。


「そうぢゃのう、綺麗な栗色のセミロングで、パッチリとしたおめめの美肌な乙女ぢゃったぞ」


「……」


……心当たりがある。


「……おとなしい性格の、やや貧乳でした?」


「え゛? 性格は確かに物静かぢゃったが……胸は……まあ……小さめの普通くらいかの?」


「そうですか……」


やっぱりだ。


特徴からして妻だ。しかも若い頃の。


今、天国に行く理由はなくなった。


俺が最初の転生者じゃないという事実も気になったが、今自分が言うべきはこの言葉しかなかった。


「……あの、神様」


「うん?」


「俺も……デデスケーンケに行かせてもらえますか」




「デディスカイケンぢゃ」


「ディ、デディスカイケンに行かせてもらえますか!」

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