第35話 恋人になりました
「―――私は、貴方が、好きです。紛れもない貴方が―――」
その言葉を聞いたクリストファー様は瞠目して、何度も瞼を瞬きました。
………って……ぬぅわぁぁぁああああああ!
言ってしまってから自覚しました。してしまいました。
これって告白しているようなもんじゃね?
と。
いや、あの誤解で、いや、誤解じゃありません。
クリストファー様が好きな事には偽りも糞もありませんが、これは告白ではありません。そう!フォローです!これは!
あわあわと目を白黒させる私を見て、こちらの世界に戻ってきたクリストファー様は、クスクスと笑います。少し涙目の大きな瞳を柔らかく細めている彼は、いつも通りに戻っていました。
「ありがとうございます、ジゼル」
私の頭を撫でる大きな掌。気持ちよくて、自然と笑みが零れます。
クリストファー様はそのまま私の髪を伝って、栗毛をひと房手に取ると、そこに口付けを落としました。その流れる様な動作と、だだ漏れる色気、後に映る神秘的な画に、私は真っ赤になってしまいます。
そして、うわ言のように「リズ」と呼んだクリストファー様は、そっと壊れ物を扱うように私の頬を掌で包みました。少し指先のかさついた、ひんやりとしたクリストファー様の手。こそばゆくも、その確かな熱に、私は時が止まったように目の前の銀糸の君にしか意識が届きませんでした。
もう、どうしたらいいか分かりません。耐性も何も無い私は、ピキリと音を立てて固まったまま、何も反応せず只クリストファー様の瞳を見つめるだけ。
とくんとくんと速まる鼓動。
近づく彼の顔。
親指の腹で撫でられる頬の感触。
こつりと額を突き合わせて、1度閉じた瞼を恐る恐る開けると、超至近距離で見つめ合う状態になってしまいました。
「ジゼル………」
息と共に呼ばれる名前は甘美に聞こえます。
「宜しければ―――――僕の恋人になってくれませんか?」
……………。
僕の、恋人に、なって、くれませんか。
ぼくの、こいびとに、なって、くれませんか。
ボクノ、コイビトニ、ナッテ、クレマセンカ。
Bokuno、koibitoni、natte、kuremasenka。
……………え?
本当に………?
私が、貴方の恋人になって宜しいのですか?
胸に灯る熱を感じつつ、現を抜かす私。
でもそんな中、私を縛り付ける鎖が、存在感を主張するように心臓に巻き付きます。
こんな魔力の持ち主が、こんな変わった体質の持ち主が、恋人を作るなんてどうかしている。
相手を死なせても良いという事だな?
それとも、そのまま自分で死ぬか?
いいえ――――いいえ。
不安が無いわけではありません。
この私の存在自体がクリストファー様のご迷惑になるかもしれない、という事は良く分かっています。
でも、『魔物』では無いと言ってくれた彼を、信じたい。
だから、少しだけ、我儘を言っても、良いですか―――?
「――――――――はいっ……!」
その瞬間、ふわりとクリストファー様の香りに包まれました。一瞬何が起こったか分かりませんでしたが、背中に回る逞しい腕や、大きな胸板、左耳を擽る三つ編みから、抱き締められたことを悟ります。
静寂の中、私達は暫く抱きしめ合っていました。
幸せを噛み締めながら。
これが、全ての始まりだという事に気が付かずに。
*****
久しぶりに甘いのを書いた気がします(笑)
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