第28話 名前を呼ぶことになりました



 あれから数日後の放課後のこと。

 フリージア様からお茶会に招待され、私はフリージア様がサインをすれば成立する契約書を片手に出席しました。




「………殿下」


「やぁ、リズ。私もフリージア嬢に招待して貰ったんだ」




 えーっと。これはどう理解しておくべきですかね。

 何だか最近二人とも変ですよ。私の隣に、いつもどちらかがいらっしゃる事は今までありませんでしたから、困惑気味です。




「グラシエ様、この度はご招待して頂きありがとうございます」


「………よろしくてよ」


(………話すんじゃ無かったのか?)


(………う、うるさいですわ)




 つんとそっぽを向いてポツリと答えるフリージア様。私の事を嫌っているのに歩み寄ろうとして下さるなんて、なんて慈悲深い方なのでしょう。


 そう畏敬の念を抱いていた最中、ジルフォード殿下はフリージア様に呆れた目を向け、フリージア様はそれに羞恥か何かでほんのり赤くなっている。


 ………か、か、か、可愛いぃぃい!

 殿下!フリージア様の萌えポイントやっと見れましたね!


 何だか2人の距離感が狭まっていて、勝手にキューピットの役割を名乗っているわたくしからすると、とても感動的です。涙が出そう。ゴールインもこれは近いかもしれません。




「さて、フリージア嬢。今日はリズに言いたい事があるんじゃないの?」


「………卑怯ですわ」




 有無を言わせない輝かしい笑顔でそう言った殿下を睨めつけるフリージア様ですが、その目は涙目で全く怖くありません。可愛らしいだけです。………私、本当にここに居ていいのでしょうか。恋人同士の逢瀬を邪魔している嫌な女になってません?




「………あの、わたくしにお話とは………」


「ジ、ジゼル=ウェリス。とっ、特別に、わ、わたくしの名前を呼ぶ事を、ゆっ許して差し上げますわっ!!!」




 何を言われたか一瞬分からずに私は頭が真っ白になってしまいます。段々とその意味を理解して、頭の中に落とし込みました。




「………はい、ありがとうございます」




 惚けたように返答した私は、何故フリージア様がこんな提案をするのか意味を図りかねていました。




「ふっ……くっ……ははははははっ!!良かったですね、フリージア嬢」


「全然良くありませんわ!!これではわたくしが無理矢理この子に了承させたみたいではないの!!!」




 ひぃひぃ言いながらお腹を抱えて笑う殿下に、立ち上がって反論するフリージア様。私はそれに若干遅れて反応し、両手で手を振りました。




「いっ、いえ。そんな事はありませんわ。とても名誉な事で、嬉しく思っております」


「本当ですの?!」




 フリージア様はぐいっと顔を接近させて私の手を掴みました。それに吃驚しながら、勢いよく何度も首を縦に振りました。すると、フリージア様はぱあっとまるで薔薇の花が咲くように華やかな笑みを浮かべました。それに思わず顔が赤くなってしまいます。美しすぎるんです。


 殿下、何で悔しそうなのですか。えーっと、ですね。

 きっと女装もお綺麗で素敵だと思いますよ。




「リ〜ズ?バレてるからね?」




 はい、すみませんでした。




「では、早速フリージア様。わたくしのことも是非ジゼルと」


「………リズ、じゃダメですの?」




 扇で口元を覆いながら、そっぽを向くフリージア様に、キュンとしてしまいます。私は満面の笑みで、「勿論、喜んで」と返しました。




「とっ、特別ですのよっ!」




 ふふふふふふっ。

 ツンデレは神に匹敵するくらい尊いものですね!




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