第27話 地雷を踏んでしまった《ジルフォード視点》
ジルフォード視点です。
……複雑です。
*****
クリストファー=レヴィロ。
現レヴィロ公爵であり、私の従兄であり、そして―――
私が1番警戒しなければならない人物である。
**
生徒会室にクリストファーが現れ、リズと仲睦まじそうに会話する様子を見て、胸が締め付けられたような息苦しさを感じる。
ただの醜い嫉妬。
ジゼルはクリストファーに想いを寄せている。私は彼女の機微には、より気づきやすいが、今回は当て付けのようにひしひしと感じた。
上気した頬や潤んだ瞳、恥じらうようにはにかむその笑顔で、嬉しい、好きだとクリストファーに全身で訴える目の前の彼女は、私が一番手に入れたかったものだ。
――――――私達にここまで恨みをぶつけるのか。
私は、優しげに微笑むクリストファーを見てそう思った。
本来ならば私とクリストファーは関わるべきではない。関われば、あの隠蔽された歴史が引き金となって私の周囲の人間が―――いや、王家の人間の周囲の人間が狙われる。
そうなれば、今1番狙われるのは、紛れもなくジゼルだ。
彼女を何としてでも、嫌われたとしても、クリストファーと距離を取らせなければならない。
「―――クリストファーは止めておいた方がいいよ」
彼女を傷つける言葉を遂に言ってしまった。
クリストファーのみならず、私にも近づかない方がいい。言ってしまえば私から離れれば、彼女に害が及ばなくなる。ただそれだけで解決するかもしれないのに、私は彼女を手放せない。
「え………何を仰っているのですか………」
リズの1トーン下がった声は震えていた。またも二人の関係にピキリと罅が入るのが分かる。私からは離れられるのかと自嘲気味に嗤った。リズは私から逃げたがっていた。離れたがっていた。だから私に近づかないという事は、彼女にとって喜ばしい事だろう。
だが―――と矛盾だらけの自分の思いが、ループし頭の中を駆け巡った。
「………いけませんか。わたくしが、わたくしを普通の人間として認めてくれた誰かの所にいたいと願うのは、そんなにいけませんか」
吐露するリズの声に、苦しみや怒り、沈痛さが徐々に表れる。地雷を踏んでしまったかもしれないと発言を後悔した。私は彼女の前では失敗してばかりだ。
だが、「普通の人間」として認めるというのはどういう事だろう。リズが極めて異端とされる理由のひとつは、魔力であることに間違いないのだが、「魔物」だの「怪物」だの言っている者は教養の無い奴か、それの下に付く下級貴族達がある事ない事言いふらしているだけである。
私自身、リズを異質だと思った事は一度もない。二つ名を忘れる位に私は本気だ。
「………いえ、何でもありません。すみませんでした」
リズは逃げるように席を立ち、ドアの前で私に背を向けて言いたい事があると言いたげに止まった。僅かに横を向いてゆっくり言葉にするリズ。
「………殿下を信じていない訳ではありません。誤解を招くような発言をしてしまい申し訳ありませんでした。そんなに心配なさらないでも大丈夫ですよ。わたしくしは、わたくし自身が信じた人とお付き合いしていきたいのです」
正面を向き、俯いたリズの言葉は、私にはよく届かなかった。
「――――わたくしは、生きるのにも、精一杯なのですよ」
去ったリズと入れ変わるように、ジト目でこちらを見ながらフリージア嬢が入ってきた。
「乙女を泣かせるなど言語道断ですわ」
「…………」
「はぁ………何故わたくしはこんなヘタレに惚れていたのでしょうね」
やれやれと額に手を当てるフリージア嬢。そして彼女は私をガンつけるように睨む。
「何を言ったらあの子をあんなにまで傷つけるのです?」
「………嫉妬だよ」
「あぁ……レヴィロ様ですね。大体貴方は素直な言葉にし無さすぎですわ。彼女を本気で狙っているなら、好きだの愛しているだの、愛の言葉をひとつぐらい囁いたら如何です?それで君を婚約者にしたい等、乙女を何だと思っているのでしょう」
「………それは君に言われたくない」
「何ですって?!」
私はスっと目を細め、全く笑っていない笑みを浮かべ彼女を見る。それに対抗する様にフリージア嬢も口元だけにこりと微笑んだ。
「現生徒会役員に挨拶をしなければいけないから放課後残るように、とリズに自分から言うからと私から貴重な接触時間を奪ってまで進言したのにも関わらず、言わなかったのは何処のどいつだろうな?」
「………あんなに敵視していた令嬢に親しげに話し掛けるなんてハードルが高すぎたのですわ。でも殿下とわたくしとでは訳が違いましてよ」
お互いに無言の攻防を繰り返す。五十歩百歩な展開に、同時に溜息を零した私達。するとフリージア嬢は口の端をくいっと引き上げて、取り引きを持ち掛けてきた。
「では、わたくしはジゼル様と話をしますから、殿下は立会人としてわたくしに付き合って下さらない?勿論取り引きですからフェアな契約でしてよ。わたくしが、殿下と彼女の仲を取り持ちますわ!」
しーん。
「……ふふふふふっ………却下」
「どうしてですの?!?!」
何故か?
決まっているじゃないか。フリージア嬢が介入すれば、リズは「わたくしがお二人を応援いたしますわ!」と奮闘するに決まっているのである。それに、信用ならん。
「私が立ち会うのは問題ない。提案だが―――私がリズの近くに居られない時はフリージア嬢、貴方が彼女の側にいて欲しい。決してリズを1人にしない事。それとその様子を随時報告して欲しい」
「………ストーk「断じて違う」」
その目が変態とでも言いたげだったので、微笑みながら首をこてんと傾げる。
「はぁ………良いですわよ。これまでの殿下への迷惑料もありますから。契約成立、という事で宜しくて?」
こうして、リズの知らない所で私達は約束を交わしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます