第11話 限界

 以前から、一つの懸念があった。

 感染していないはずの、無菌室に隔離されたマウス。


 それが、相次いで発症していた。

 感染経路はエサか水であろうか。


 無菌室に入れた時点で感染していたという疑惑は、無菌室内で繁殖している動物たちには通用しない。

 それでも感染したのは、外界との接点に問題があったと考えられる。


 二百四十度の加熱処理程度では不十分、という時点で食品に施すことのできる殺菌処理が存在しないことになる。

 温度をもっと上げれば良い、というのは無茶な話だ。

 温度を上げれば、熱による化学変化が激しくなる。

 四百度を超えれば燃えだすものも多くあるし、それ以下でも炭化していく。

 黒焦げになるまで加熱すれば、たしかに細菌もウイルスも死滅するだろう。だが、マウスもラットも、そんな物を食べはしない。


 食べ物を、食べ物のままで殺菌処理をするのは限度があるのだ。

 外界からエサや水を持ち込んでいる時点で、細菌やウイルスが入り込む余地がある、と言える。


 だからこそ。

 その余地が無いはずの培養槽内の動物が発症したのは衝撃的だった。

 何より。

 外界と完全に隔絶させているはずのエコシステム実験施設内の動物たちに壊滅的被害が出たのは想定をはるかに超えたことだった。


「既知の感染症とはまるで異なる感染システムを持っている」


 医療研究者たちの出した結論は、自分たちの手に負えない、といっているにと同義であった。

 病原体の検出は、全く進展が見られない。

 感染の経路すら全く掴めていない。


 唯一分かっていることは、代謝能力に見合った運動をしていれば発症のリスクが極端に低くなる、ということだけだった。

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