追放ものが好きな人たち

内山悠

追放ものが好きな人たち

「なろう系」は今や、web小説の一大ジャンルとなった。元々は「小説家になろう」というサイトに投稿される創作物を示す言葉だったと思うが、現在は言葉が独り立ちし、ある種のテンプレ要素を含む小説を丸ごと「なろう系」と言うまでになっている。

 元来、アマチュアのオリジナル作品であった「なろう系」は、現実の出版社から書籍化され、メディア展開する作品まで出てきており、収益の見込みという観点では、小説のジャンルとして立派に確立しているのではないか。



『ハーレムもの』

 なろう系には様々なテンプレがあるが、その中でも最も特徴的なのは「ハーレムもの」だろう。ほとんどの場合、冴えない男主人公が突然異世界に行き、ハーレムを築きながら楽しげに冒険したり暮らしたりする。「ハーレム」とタイトルに唄ってしまう小説まである。



『追放もの』

 もう一つ、私が気にかかる分野がある。最近ネットで目にするようになった「追放もの」というジャンルのことだ。何らかの集団(冒険者パーティ、ギルド、学校のクラス)から追放された主人公が、その能力を開花させ、自分を追放したかつての仲間に復讐したり、落ちぶれた彼らを嘲け笑ったり……先程の「ハーレムもの」との違いが分かるだろうか。



『不幸になる人の立ち位置』

 「ハーレムもの」も「追放もの」も、既存の集団・社会から逃れるという脱社会性では共通している。違うのは「不幸になる人の立ち位置」である。

 「ハーレムもの」は、冴えない主人公が力を持ち、主にかわいくておっぱいの大きい女の子を助けたり、仲間にしたりしてハーレムを形成する。そこには、(ジェンダー的な観点は置いておいて)、少なくとも不幸な人たちの存在は見られない。主人公は楽しい思いができて幸せ、女の子たちも好きな主人公と一緒にいられて幸せ、という風にハーレムがまとまっている。

 むろん、「ハーレムもの」においては、主人公の敵達は不幸な目に遭うのだろうが、彼らは分かりやすい悪として描かれることが多い。彼らが主人公に痛い目に遭わされるのは「因果応報」として読者の目には映る。また、彼らは概してモブキャラの如く大量に登場し、彼らが主人公に敗れた後の末路はあまり描かれないように感じる。

 「ハーレムもの」においては、幸せな主人公一行と、舞台装置に過ぎない「不幸な敵」が主人公の遠く離れた所に存在している。


 一方、「追放もの」においては、不幸になる人は主人公に近しい人々であることが多い。主人公が所属していたパーティー・ギルドのメンバー、クラスメイト等、「ハーレムもの」の敵と比べると、彼らは社会的に随分と主人公と近い所にいる。

 また、主人公のかつての仲間は、落ちぶれたり不幸になった後も、その惨めな姿が描かれることが多い。むしろ、主人公が延々と彼らに復讐し続けることが、ストーリーの要になっていたりする。

 「ハーレムもの」が、小さくも幸せな集団を描き続けるのに対し、「追放もの」では、大多数の不幸な「主人公のかつての仲間」の凄惨な人生を描き続けることになる。



『追放ものに感じる凄惨さ』

 私は、「追放もの」のこういった構図に、ある種の陰湿で歪んでしまった感情を見い出せずにはいられない。「ハーレムもの」は、主人公が新たな関係性を構築し、周りの人々を幸せにする物語である。しかし、「追放もの」は主人公が関係性を放棄する所から始まり、身近だった他者を不幸に陥れる物語である。

 「ハーレムもの」は、スケベな男の都合の良い妄想と一笑に付すこともできよう。しかし、「追放もの」を同じように笑い飛ばすことができるだろうか。

 私には、現実で虐められ、居場所がなく、見下されている人たちが、「追放もの」を読むことで、彼らに現実では叶わぬ復讐を果たしているように思えるのである。

 そこには、「現実で頑張って周りを見返そう」とか「努力して女の子にモテるようになろう」等の、ポジティブな上昇志向は見いだせない。逆に私は、世界に対し呪詛を振りまき、人々を不幸に貶めようとする「魔法少女まどか☆マギカ」に登場する魔女のような歪みきった感情を見てしまうのである。



『ものすごく端的に言うと』

 あなたは、「ハーレムもの」を読む人と、「追放もの」を読む人、どっちと仲良くなりたいですか?



 

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