第8話#魔法使い

王は願いを引き受ける代わりに、衣食住全てを受け持ってくれることになった。

その他戦争に向けた特殊訓練など。

ある意味、お金も払わずに私はある程度の暮らしを得ることが出来た。

だがこうも知らない人と同じ部屋となると少し心細い。

私がいる部屋は大きく使い勝手があるが、相部屋なのが気恥しい。

生きている時は友達などもおらず、お泊まりなんぞしたことも無い。

私は少し困惑しながら、部屋を眺めた。

その時、同じ部屋を使うメンバーが来た。


「どうも、私は同じ部屋で暮らすことになったアルカナよ、よろしくね!」


「同じく、カルロスだ」


「僕も同じ部屋のグリム、よろしく!」


私を含め4人の仲間と同じ部屋を使うこととなる。

3人とも王国では名高い魔法使いとして有名らしい。

属性は闇ではないものの、熟練の魔法使いでそれぞれの戦闘力が兵団一個に等しいと言う。

私も彼らに習い自己紹介をする。


「私はトキ、未熟者だがよろしく頼む」


「うんうん!その意気だよ!!」


「こちらこそ」


「僕達が魔法を教えてあげるからね!」


皆、とても心強い人ばかりで私は安堵する。

だが、私の方に乗っているスライムに誰も口を出さない、城の中に魔物を入れるな!と言われそうだったのだがあまり気にしないようだ。

だが、アルカナはアニをすごい距離で見つめる。

アニもあとずさろうとして私の肩から落ちそうになる。


「このスライム....ちっちゃぁ〜い!!可愛い!なにこれ!キュートー!!」


想像以上に興奮しているようだ。

アニも少し困惑する。

あまり人にちょっかいは出されたことがないのだろう、ぷにぷにと触られるのを嫌がっているのが目に見えた。


「あまり触らないでおこうよ、アルカナ....」


「やっだー!!なんでこんな可愛いのー!!ぷにぷにするんだけどぉ!」


私はなんとも言えずその場でアニを見守る。

だが、あまりに嫌だったのか私の帽子の方まで移動してきた。そして、そのまま帽子の中に入って出てこなくなってしまった。


「ほらぁ、アルカナがつんつんするからー」


「人の所有物だ、容易に触れるな....」


「むぅ....」


さすがにアルカナもアニを追いかけるのをやめた。

正直、所有物とは思っていないものの、勝手にアニに触れないで欲しい....。

まぁ、そこまで気にすることでもないのだが。

私がその状況に苦笑していると、カルロスが訓練場まで案内してくれることになった。


「とりあえず、訓練は明日から開始する事になるから準備をして朝早く起きてくれ」


「分かった」


カルロスの言葉に軽く返事をする。

カルロスの案内により訓練場まで歩いていくことになった。

訓練場は城の裏側─私が入ってきた城の扉とは逆方向─にあった。

城を出たあとの道は草が生い茂り木も生えていて自然に近い形だった。

そしてその草原に一つの小屋がある。

その小屋は魔物を置いておくらしい、魔物と言っても危害を加える魔物ではなく害のない育てられている魔物らしい。

温厚な魔物の赤子を人の手によって育てる。

そうすることで、人の手によって育てられた魔物は攻撃はせず、人の言うことを必ず聞くという。

アニと同じようなものらしい。


「基本この草原を使って訓練をすることになる、僕達の訓練を担当するのは兵団の団長である、アダム団長とイブ団長だ」


アダムとイブ、それは私が城の門で困っていた時に助けてくれた人とその兄妹と思わしき人だ。

正直、アダムという方は部下を手駒と思っているか物と思っているかのどちらかなのだが、王への忠誠は本物だとうかがえる。

腰に差していたのは剣なのだが魔法も使えるのか疑問に思う。

妹と思われるイブという方もよくは見えなかったが鎌を担いでいた。

あの身なりで魔法を使えたらそれこそ最強だ。魔法が使えていなくても、王の右腕左腕という形だろう。

出来る人は違うのだな....。


「少しここを使っていてもいいか?」


「構わないと思うけど、夕食前には戻ってきてね」


「分かった....」


カルロスはそのまま城の中へと戻って行った。

私は帽子の中からアニを出し、魔法の練習をすることにした。

アニと会話ができると知られればアルカナが真っ先にいじりに来るだろう、そうなれば対処に困る、そんな事態を防ぐ為にも、誰も来ない場所でひっそりと会話をするしかない。


「アニ、大丈夫?」


「ちょっと....」


「元気なさそうね....、まぁあれだけベタベタ触られたら誰でも嫌がるわ」


アニと契約を果たして時間が経ったのか、アニの言葉が直接変換され私の耳に聞こえるようになった。

これで会話がスムーズになることだろう。


「今から少しだけ魔法の練習をしようと思うから、そこにいてね」


「うん、わかったよ」


アニとの会話を終え、私は意識を集中させる。


「みんなの足でまといになる訳には行かない....」


全身から力が湧いてくるのが分かる。

そのまま私の意識は、手のひらへと渡っていく。

正式な魔法名ではなくとも、発動はする。

私はそのまま魔法名を言葉にする。


「黒炎ノ支配者・【畏怖裏異斗イフリート】」


私の言葉と共に、そこには炎を纏う何かが現れた。

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