二夜目
また私は暗闇の部屋に居る。
なぜ二晩も連続でこんな夢を見るのだろうか。性的な欲求不満は一切ないというのに。昨夜と同じように裸体で絡み合う男女が居る寝台の前からまた動くことが出来ない。
どんなにぼやいてみても私は睦み合う男女から視線を動かせない。見るしかないならばと、よく見れば昨日と違う寝台だ。又しても男女の顔が見えないが男が確実に違うのは分かる。
この男も鍛えているのだろう、引き締まった体型だがどうも昨夜の猛々しい男と比べてしまうと普通と感じてしまう。そしてなぜかこの男も少なからず至る所に傷痕が見える。
男は寝台の上で胡坐をかき、その上に対面になるように女を座らせ、傍目から見ても分かるほどひどく優しいゆっくりした仕草で女の頬を撫でている。その触れ方をする手にも傷痕があるのが不釣合いに感じる。撫でられただけで男に絡み付かせている肢体を震わせる女はやはり平凡としか言いようがない。昨夜の女より胸はあるが体勢が違うのでなんとも比較できない。
男が触れるだけの口づけを女の頬、顎、首へと落とす。同時に頬を撫でていた男の優しい手が、仕草はそのままに女の身体へとゆっくりゆっくりと下がっていく。女は軽い口づけをされるたびに嬌声を上げ、ねだるように腰をくねらせた。そこで私はやっと気付く。
ああ、すでに繋がっているのか、と。
女が尚もゆっくり腰をくねらせ、男に擦りつける。男はそれを咎めるように女の身体に這わせていた手を強請る腰にそえ、既に女の中に埋まっている雄をより奥に進ませるように女の腰を強く男の方に密着させる。途端に上がる、女の甲高い嬌声。
上体を後ろに反らした女の身体を支えるのは腰を掴む男の手と、女の中を貫いたままの雄。
達したのか体を震わせる女に、男は腰を掴んでいた手を片手だけ動かし、女のわななく唇に指を這わす。女の下唇を優しく、ゆっくり、焦らすように、愛おしそうに。その行為に満足したのか男が指を離したと思うと、今度は舌で女の唇を丹念に愛撫し、女の息が整ってきたのを見計らいそのまま口づけに変わる。女もまた男の口づけを求め、自ら唇を絡ませる。ゆっくり、優しく、しかし確実に深くなっていく。
結局、私が見ている間に男は雄を律動させる事はなかった。優しく穏やかな、愛をゆっくりと感じ合う、そんな行為だった。
ああ、悔しい。こんな夢を見てしまうのが悔しくて堪らない。
ああ、目覚めたくない。現実を目になんかしたくない。
そう思うのに私の目は開いていく。陽がだいぶ上ったのか窓から暖かい光が差しこんでいた。ふっと身体が軽い事に気付く。いつもなら私を盾にする男の腕が絡み付いてない。珍しい事もあるものだと、その男が居ると思われる場所に腕だけ這わすと、冷たいシーツの感触しかしなかった。
私はもう一度、目を閉じ、願う。
男がこのまま二度と戻ってきませんように、と。
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