夢の狭間②

「言ったとおりに、晴れただろう」


ハチドリは黙っていた。背後から聞こえる声の主は分かっている。

いつ見てもくたびれている羽織りの模様が視界に入り、ハチドリは目だけでそれを追う。


「こら、井戸の淵に座るなと何回言わせるんだ」


何度も聞いたその小言にしぶしぶ両足を地面におろす。改めて声の主を見ると、いつもの羽織の下は旅装だった。

背中に袈裟と僅かな荷を括り、声の主である男はハチドリの目の前に立ち顔を近づけた。


「ハチドリ、私が居なくなった後、皆を頼むぞ」


ああ、だから嫌だったんだ。嵐がほんの少しだけこの人の足を止めてくれても、別れは必ずやってくる。


「お前はそう見せないだけで心配をしすぎる性質があるから、もっと余裕を持ちなさい」


最後まで教師面をする男から顔をそむけ、ハチドリは今まで言えなかったことをゆっくり口に出した。


「なあ、行かないでくれよ先生」


「ハチドリ、」

「先生が居てくれたから、身寄りのない俺たちまともに生きてこれたんだ」

「……すまない、私は」

「先生これからどこに行くんだよ。いつか帰ってくる?」


大きな手がハチドリの頭を撫でた。


「ああ、きっとお前たちに会いに戻ってくるよ」



――嘘つき。
















(第三章まで読んで下さりありがとうございます。皆様の★や温かいコメントのおかげで筆を進める事ができております。まだまだ続きますのでこれからもよろしくお願いします。)

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